
「手術の後から、腸閉塞の予防として大建中湯(だいけんちゅうとう)を飲まされている」
「でも、飲んでいるのにお腹が張って苦しいし、自分には合っていない気がする…」
西洋医学の病院では、術後のイレウス(腸閉塞)予防としてルーティンのように出されるお薬、大建中湯。しかし、太陽堂には「病院で出された大建中湯が合わない気がする」というご相談の方も多くいらっしゃいます。
今回は、イレウス(腸閉塞)の仕組みと、大建中湯を長期で飲むことの「漢方的なリスク(熱と癒着)」について、西洋医学と東洋医学の両面を知る太陽堂の薬剤師が詳しく解説します。

イレウス(腸閉塞)とは?なぜ起こるのか
まずは「イレウス(腸閉塞)」がどういう状態なのかを知っておきましょう。
イレウスとは、腸の動きが悪くなったり、通り道が狭くなったりして、食べた物やガスが腸に詰まってしまう病気です。突然お腹がパンパンに張り、激しい痛みや吐き気、嘔吐を引き起こします。
原因は大きく2種類に分けられます。
- 機械的イレウス(機械的腸閉塞): 腸がねじれたり、手術後の「癒着(ゆちゃく)」などによって物理的に腸が塞がれてしまう状態。
- 機能的イレウス(機能的腸閉塞): 神経の異常や「極度の冷え」などにより、腸そのものが動かなくなって内容物が停滞する状態。
病院で術後に出される大建中湯は、主に手術後の腸管の癒着予防や、麻酔で止まってしまった腸を動かすために使われます。
【コラム】薬剤師 林先生の視点「調剤薬局時代に感じた違和感」
「私が以前、調剤薬局で働いていた時に一番気になっていたのが、病院から頻繁に処方されるこの『大建中湯』でした。
西洋医学のガイドライン(定型処方)としては大正解なのですが、漢方を勉強し始めてからは、『手術の後に、全員に一律で大建中湯を飲ませるのは本当に大丈夫なのか?』と強い矛盾を感じるようになったんです。その理由は、このお薬の『成分』にあります。」
大建中湯ってどんな漢方薬?(成分と働き)
大建中湯は、以下の4つの生薬で作られています。
- 乾姜(カンキョウ): お腹の芯を強力に温める。
- 山椒(サンショウ): ピリッとした辛さで冷えを取り、腸を動かす。
- 人参(ニンジン)・膠飴(コウイ/水飴): 胃腸の弱り(脾虚)を助け、痛みを和らげる。
漢方の古典には「痛む者は、寒気多き也。寒有る故に痛む也」と書かれています。乾姜や山椒は、手足の冷えや低体温症にも使われる生薬です。
つまり大建中湯は、「お腹が極度に冷えて、弱っていること」が大前提で使われるお薬なのです。
麻酔の影響などで一時的に腸が冷えて動かなくなっている状態(機能的イレウス)に対し、短期間(2〜3日程度)使って腸を動かすのであれば、とても理にかなっています。
【チェック表】あなたのお腹に「大建中湯」は合っている?
今飲んでいる大建中湯がご自身の体質に合っているかどうか、以下の表でチェックしてみましょう。
| 体質・症状のサイン | 大建中湯の適性 | どうして?(漢方の理由) |
| お腹を触ると冷たい・冷えると痛む (お風呂に入ると楽になる) | ◎ とても合っている | 乾姜と山椒の「温める力」がピンポイントで効き、腸が動き出します。 |
| 体力がなく、疲れやすい (術後でグッタリしている) | ◎ 合っている | 人参(ニンジン)と膠飴(水飴)が、胃腸のエネルギーを補給します。 |
| お腹がパンパンで、顔が赤くのぼせる (暑がり・便がウサギのフンのように硬い) | × 合わない可能性大 | 腸の中に熱がこもっているため、大建中湯でさらに温めると乾燥が悪化します。 |
| 味がどうしても受け付けない (飲むと胸焼けがする) | × 合わないサイン | 体が「その熱(薬)は要らない」と拒否しています。 |
【コラム】薬剤師 石川先生の視点「婦人科術後のお腹の張り、実は『緊張』かも?」
「子宮や卵巣などの婦人科手術の後、『大建中湯を飲んでいるのにお腹がパンパンに張って苦しい』というご相談も多くお受けしています。
実はこれ、腸が冷えて止まっているのではなく、手術のショックや不安による自律神経の乱れ(漢方でいう『気滞:きたい』)が原因の事も…
腸がストレスでギュッと緊張し、痙攣(けいれん)してガスが抜けなくなっている状態です。
このように腸が緊張して『熱』を持っているところに、大建中湯のような『強力に温めてムチ打つようなお薬』を入れると、かえって腸がパニックを起こし、さらに張りが悪化してしまいます。
デリケートな女性の術後には、無理に温めて動かすよりも、『まずは腸の緊張を優しくゆるめて、リラックスさせる』というアプローチが必要なケースが本当に多いんですよ。」
【ここが危険】術後に大建中湯を使い続ける「漢方的なリスク」
では、なぜ私が「術後に大建中湯を使い続けるのは疑問だ」と感じるのか。理由は大きく2つあります。
1. 手術直後の腸は「炎症(熱)」を持っているから
メスを入れた後の体(腸)は、傷を治そうとして強い炎症を起こし、「熱」を持っています。
漢方の基本は「熱がある時は冷まし、冷えている時は温める」です。それなのに、熱(炎症)を持っているお腹に対して、ストーブのように強力に温める「大建中湯」を入れるのは、火に油を注ぐようなものです。腸の中が乾燥してしまい、余計にお腹が張る原因になります。
2. 温めることで「癒着(ゆちゃく)」が進む危険性
術後のイレウスで最も怖いのが、本来くっつかないはずの組織同士がくっついてしまう「癒着性イレウス」です。
傷ついた細胞の炎症が鎮まる過程で、癒着は起こりやすくなります。そこに大建中湯のような「温める作用」の強い薬を長期間使ってしまうと、炎症が長引き、かえって癒着が進む(組織がくっつきやすくなる)可能性が出てきてしまうのです。
「癒着を防ぐために飲んでいる薬が、実は癒着のリスクを高めているかもしれない」というのは、漢方的に見ると非常に注意すべきポイントです。
大建中湯が合わない場合の「代わりのアプローチ」
「じゃあ、大建中湯が合わないなら、どうやってイレウスを予防すればいいの?」と思われますよね。
漢方には、お腹を加熱しすぎず、腸の働きを優しく整える方法があります。
例えば、「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」という漢方薬があります。
本来は腹痛やしぶり腹に使われるお薬ですが、漢方的な視点で見ると、腸の異常な緊張や痙攣(けいれん)を優しく解きほぐし、自然な蠕動(ぜんどう)運動を取り戻す手助けをしてくれます。お腹を無理に加熱しないため、術後のデリケートな腸の不調(張り、痛み)の改善に、非常に使いやすいと考えています。
※自己判断で病院の薬を急にやめるのは危険です。まずは主治医に「お腹が張る、味が辛い」と相談するか、我々のような漢方専門の薬剤師にご相談ください。
【改善症例】大建中湯で「お腹が張って苦しい」術後トラブルが解消
実際に太陽堂でご相談をお受けし、大建中湯から切り替えて改善した例をご紹介します。
【50代 女性】婦人科手術後の腸閉塞予防
お悩み:
子宮筋腫の開腹手術を受け、術後からイレウス予防として大建中湯を処方された。しかし、飲み始めてからお腹がパンパンに張り、ガスが出そうで出ない苦しい状態が続いている。味も辛くて飲むのが辛いとご相談。
漢方薬の選定:
お顔が赤く、のぼせ気味で、暑がりな体質(熱証)。お腹には手術の熱(炎症)がまだ残っており、大建中湯の「熱」がかえって乾燥と張りを引き起こしている状態でした。
お湯に溶かす飲み方をご提案しましたが、それでも味を受け付けないとのこと。
そこで、主治医と相談していただき、お腹を加熱しすぎず、腸の緊張を緩める漢方薬(桂枝加芍薬湯など)をベースにした体質改善へと切り替えました。
改善の経過:
切り替えて1週間後、「お腹の張りが嘘のように楽になり、自然なガスが出るようになった。味が美味しいと感じる」とのこと。2ヶ月後には通常の食事が問題なく取れるようになり、不安なく「卒業」されました。
大建中湯とイレウスに関するFAQ(よくある質問)
病院から「退院後もずっと飲んで」と言われましたが、やめてもいいですか?
自己判断で急にやめるのは避け、まずは医師や薬剤師にご相談ください。
「お腹が張って苦しい」といった症状がある場合、あなたの今の体質(熱証)に合っていないサインの可能性も。次回の診察時にその旨を伝えるか、漢方専門の薬局で体質に合った代替アプローチを相談し、主治医に提案してみるのが安全です。
粉のまま飲むと辛くてむせます。良い飲み方はありますか?
必ず「お湯(白湯)」に溶かして飲んでください。
大建中湯には水飴(膠飴)が含まれているため、お湯に溶かすことで水飴本来のトロミと甘みが出て、山椒の辛味がマイルドになります。
まとめ:術後のイレウス予防=大建中湯、とは限らない
大建中湯についてご説明させていただきました。
病院のガイドラインでは定型処方として出されることが多いですが、漢方的な視点から「熱(炎症)」や「癒着のメカニズム」を考えると、誰にでも長期間使って良いお薬ではないことがお分かりいただけたかと思います。
- 大建中湯を飲んでいるのにお腹が張って苦しい
- 長期で飲み続けることに不安がある
- 自分の体質に合った、癒着を防ぐ安全な漢方を知りたい
このようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、太陽堂にご相談ください。西洋医学の視点(調剤薬局での経験)と、東洋医学の根本治療の視点を掛け合わせ、あなたのお腹に一番優しい解決策をご提案いたします。
太陽堂の特徴
”当薬局のHPをご覧いただき、ありがとうございます。
私たち太陽堂は「一人でも多くの方の笑顔を見る為に」という思いのもと開局しました。
漢方薬とお客様の出会いがお悩み、体質改善の一助になれれば幸いです。”
特徴その1.
当薬局では、お客様「ひとりひとりに合わせた漢方薬」をその場で調合いたします。
そのため初めてのご相談では、「約1時間~1時間半」ほど相談時間をいただいております。
(遠方のお客様や、お忙しいお客様へは配送の受付もしております。詳しくはお問合せください)
特徴その2.
お作りする漢方薬は、国内外から厳選した生薬の力を、余すことなくお客様に届けるため
「煎じ薬」をお勧めしております。
特徴その3.
当薬局は漢方専門の薬剤師が「得意とする専門分野」にわかれて日々研鑽しています。
お客様の健康を第一に考え、漢方の勉強会なども積極的に開催しております。
記事作成者 薬剤師 林 泰太郎

実績:伝統漢方研究会 2015~2017年・2019年・2020年・2022年・2025年 学術発表
調剤薬局で3年間勤め、西洋の薬だけでは治療が難しい病気の壁に直面。
・「治療の難しい病気をなんとか治したい。」
・「ひとりでも多くの患者さんを笑顔にしたい。」
という想いから漢方の道へ。
漢方薬局で3年間修業をして、2015年 『漢方薬局 太陽堂』を立ち上げ。
開局10年を迎えた今も1ヶ月の平均来局数は900名を超え、お客様にご愛顧いただいている太陽堂の漢方薬剤師です。
記事作成者 薬剤師 石川 満理奈

得意な疾患:胃腸疾患・耳鼻咽喉疾患・不妊症・婦人科・肝臓・腎臓
開業医だった父の影響で小さい頃から医療は身近に。
薬学部を卒業後、調剤薬局に勤務。
自分自身の胃腸の不調も漢方薬により改善。
よりご来局頂いた方の体質に沿った治療の選択をできるようになりたいという思いから「漢方の道」へ。















