
痔の定番漢方「乙字湯(おつじとう)」とは?
痔の痛みや腫れに悩んで漢方薬を調べたことのある方なら、一度は「乙字湯(おつじとう)」という名前を目にしたことがあるかもしれません。
病院(肛門科)でも処方されることが多く、いぼ痔(痔核)の代表的な漢方薬として知られています。 しかし、単に「お尻の炎症を抑える薬」と思われがちですが、実はそのメカニズムには東洋医学の奥深い知恵が隠されています。
今回は、乙字湯がどのような生薬から構成されているのか、そして、なぜ「肝臓」の働きが痔の改善に関係してくるのかについて、太陽堂の薬剤師が専門的な視点から分かりやすく解説します。
乙字湯を構成する6つの生薬とその役割
乙字湯は、ただ痛みを止めるだけではなく、炎症、便通、そして「下がったものを上げる」という複数のアプローチを同時に行うため、6種類の生薬が絶妙なバランスで配合されています。
- 柴胡(サイコ): 肝の熱を冷まし、ストレスなどで滞った気を巡らせます。
- 黄芩(オウゴン): 柴胡と一緒に働き、体の上部にこもった熱や炎症を鎮めます。
- 当帰(トウキ): 滞った血流を優しく流し、患部に栄養を運びます。
- 升麻(ショウマ): 下に下がってしまった気(エネルギー)を「上に引き上げる(昇提作用)」という、非常に特徴的な働きを持ちます。脱肛などのサポートに重要です。
- 大黄(ダイオウ): 余分な熱を冷まし、便通を促すことで、排便時のいきみによる肛門への負担を減らします。
- 甘草(カンゾウ): 急な痛みや筋肉の緊張を和らげ、全体の生薬のバランスを調和させます。
これらの生薬がチームとして働くことで、患部の炎症を和らげながら便通をスムーズにし、いぼ痔(痔核)による痛みをサポートするのです。
【核心】なぜ痔の薬に「肝臓」のケアが必要なのか?
乙字湯のメカニズムを語る上で欠かせないのが、「門脈(もんみゃく)」のうっ血と「肝臓」の関係です。ここが、乙字湯が単なる痛み止めとは異なる最大の理由です。
【コラム】薬剤師 前原の視点「小柴胡湯から進化した『お尻のための処方』」
西洋医学の解剖学的な視点で見ると、お尻(直腸や肛門周辺)の静脈は『門脈』という太い血管を通じて、最終的に肝臓へと繋がっています。
疲労、ストレス、アルコールなどで肝臓の働きが低下すると、この門脈で血流の渋滞(うっ血)が起こります。行き場を失った血液は、一番下にある肛門周辺の静脈に溜まり、風船のように膨らんでしまいます。これがいぼ痔(痔核)の正体です。
実は、乙字湯は肝臓の働きを整える代表的な漢方薬『小柴胡湯(ショウサイコトウ)』をベースに作られています(小柴胡湯の変法と呼ばれます)。
小柴胡湯が持つ『門脈の血流を良くする働き(柴胡・黄芩など)』を残しつつ、胃腸薬の成分を抜き、代わりに『当帰(血流改善)』『升麻(引き上げ)』『大黄(便通改善)』などを加えることで、肝臓のうっ血を解消しながらお尻のトラブルに特化したのが乙字湯なのです。
このように、乙字湯は「肝臓の疲れによる門脈のうっ血」を根本から流すことで、痔をサポートするという、非常に論理的なアプローチを行っています。
乙字湯の効果・飲み方・副作用の早見表
「乙字湯 効果」で調べて来られた方に、基本を先にまとめます。あなたの痔がどのタイプに当たるかは、次の見出しで説明しています。
| 項目 | 内容 |
| 効果・効能(何に効く?) | いぼ痔(痔核)・切れ痔・軽い脱肛・便秘。医療用の効能は「大便がかたく、便秘傾向のあるものの次の諸症:痔核(いぼ痔)、きれ痔、便秘、軽度の脱肛」(体力中等度以上)です。腫れ・出血・痛みをやわらげ、便通を整えます。 |
| 向く人 | 便が硬くて便秘ぎみ、いきむと痔が腫れる・出血する、座り仕事やお酒で悪化する方。体力は中くらい以上。 |
| 飲み方 | 食前または食間に、1日2〜3回(説明書どおり)。寝る前も食間にあたるので飲んでかまいません。 |
| 効果が出るまで | 便通は数日、痔の腫れや出血は2〜4週間で手応えを感じる方が多く、繰り返しにくい体質づくりは3か月を目安に見ます。 |
| 副作用・注意 | 大黄が入っているので、お腹がゆるくなる・腹痛が出ることがあります(上のFAQ)。甘草によるむくみ・血圧の上昇、まれに間質性肺炎・肝機能の異常の報告。妊娠中の方は大黄の作用があるので、必ずご相談ください。 |
| 合わない人 | もともと下痢しやすい方、冷えが強く体力が落ちている方(温めて補う別の処方)。出血が多い・激しく痛む・脱出した痔が戻らないときは先に受診を。 |
| 市販との違い | 市販(第2類医薬品)もありますが、成分量が少なめのことが多く、漢方薬局では便通・冷え・お酒や食事の癖に合わせて量や組み合わせを調整します。 |
あなたの痔はどのタイプ?「甲字湯」やその他の漢方との違い
乙字湯は優れた漢方薬ですが、万能ではありません。痔の原因が「門脈のうっ血」以外にある場合は、別の漢方薬が適している、あるいは併用が必要なケースがあります。
血行不良(冷え)が強い場合は「甲字湯(こうじとう)」
「甲字湯」は、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)をベースにした処方です。 乙字湯が「便秘・炎症・肝のうっ血」に向いているのに対し、甲字湯は「冷え・慢性的な血流の滞り(瘀血)」が原因で痔を繰り返す方に用いられます。
痛みが激しい時のレスキュー「麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)」
本来は気管支喘息などに使われる漢方ですが、局所の強い熱と腫れを鎮める働きがあるため、激しい痔の痛みに対して一時的に併用されることがあります。
※「いぼ痔全般の原因」や「西洋薬と漢方薬のアプローチの違い(火消しと防火)」については、こちらの記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
乙字湯に関するFAQ(よくある質問)
乙字湯を飲むとお腹がゆるくなりますか?
はい、その可能性があります。
乙字湯には便通を促す「大黄(ダイオウ)」が含まれています。
元々下痢をしやすい方や胃腸が極端に虚弱な方には、負担になる場合があります。その場合は、大黄の量を減らす(オーダーメイド調合の場合)か、別の漢方薬をご提案する必要があります。
乙字湯だけで痔は治りますか?
乙字湯は体質をサポートする有効な手段ですが、痔は生活習慣病の一面もあります。
「冷え」「長時間の座りっぱなし」「アルコールの摂りすぎ(肝臓への負担)」などを見直すことも、再発を防ぐために非常に重要です。
乙字湯は何に効きますか?効果が出るまでどのくらいですか?
いぼ痔・切れ痔・軽い脱肛と、便秘に使います。便通は数日、痔の腫れや出血は2〜4週間が目安です。
「出血が減った」「いきまなくても出るようになった」が最初の変化として多いサインです。1か月飲んでも変わらないときは、冷えや体力の低下が主な痔(別の処方)か、受診が必要な状態のことがあります。
いつまで飲み続ければいいですか?
腫れや出血が落ち着いたら量を減らし、便秘の体質が残る方は便通を整える目的で続けることもあります。
大黄と甘草を含むので、漫然と何年も飲み続ける薬ではありません。節目ごとに便通・お腹の調子・むくみを確認しながら、量や中身を見直します。
1日に何回飲みますか?寝る前でも大丈夫ですか?
食前または食間に1日2〜3回が基本で、寝る前に飲んでもかまいません。
便通を朝に整えたい方は、寝る前の1回を大事にする飲み方もあります。お腹がゆるくなるときは回数や量を減らして調整しますので、ご相談ください。
まとめ:乙字湯の強みは「肝臓からのアプローチ」
痔の代表的な漢方薬「乙字湯」について、その生薬の構成と、肝臓(門脈)との深い関係について解説しました。
- 乙字湯は「小柴胡湯」をベースに、お尻のトラブルに特化させた処方である
- 肝臓の疲れによる「門脈のうっ血」を流すことで、根本から痔をサポートする
- 便秘、炎症、そして「下がったものを引き上げる」働きを持つ
「自分の痔の原因が肝臓からきているのか分からない」
「乙字湯を飲んでもお腹が痛くなるだけで合っていない気がする」
そんなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度太陽堂の専門薬剤師にご相談ください。
あなたのお悩みの根本原因を見極め、体質にぴったり合った最適なアプローチをご提案いたします。
太陽堂の特徴
”当薬局のHPをご覧いただき、ありがとうございます。
私たち太陽堂は「一人でも多くの方の笑顔を見る為に」という思いのもと開局しました。
漢方薬とお客様の出会いがお悩み、体質改善の一助になれれば幸いです。”
特徴その1.
当薬局では、お客様「ひとりひとりに合わせた漢方薬」をその場で調合いたします。
そのため初めてのご相談では、「約1時間~1時間半」ほど相談時間をいただいております。
(遠方のお客様や、お忙しいお客様へは配送の受付もしております。詳しくはお問合せください)
特徴その2.
お作りする漢方薬は、国内外から厳選した生薬の力を、余すことなくお客様に届けるため
「煎じ薬」をお勧めしております。
特徴その3.
当薬局は漢方専門の薬剤師が「得意とする専門分野」にわかれて日々研鑽しています。
お客様の健康を第一に考え、漢方の勉強会なども積極的に開催しております。
太陽堂がはじめての方へ
ご相談を考え始めた方は、まずこちらをどうぞ。
記事作成者 薬剤師 前原 信太郎

実績:伝統漢方研究会 2017年・2021年・2025年 学術発表
沖縄で開業医をしていた祖父と薬の話しをしていた事から薬剤師の道を目指すように。
調剤薬局の薬剤師として6年間勤務。
漢方の勉強をして、より患者さんの治療の選択肢の幅を広げたいという思いから「漢方の道」に。
調剤薬局も経験している為、西洋学の知識も勉強を積み今に至ります。
記事作成者 薬剤師 石川 満理奈

得意な疾患:胃腸疾患・耳鼻咽喉疾患・不妊症・婦人科・肝臓・腎臓
開業医だった父の影響で小さい頃から医療は身近に。
薬学部を卒業後、調剤薬局に勤務。
自分自身の胃腸の不調も漢方薬により改善。
よりご来局頂いた方の体質に沿った治療の選択をできるようになりたいという思いから「漢方の道」へ。











