
「授乳や夜泣きで毎日疲れが取れない」
「理由もなく涙が出たり、気分が深く落ち込む」
「抜け毛が急に増えて不安になった」
「母乳の出が悪い、または詰まりやすい」
出産は「命がけ」とも言われるほど、女性の体に大きな負担がかかる出来事です。
無事に赤ちゃんを迎えられた喜びと同時に、体力の低下やホルモンバランスの乱れ、慣れない育児による睡眠不足などで、産後の心身は非常にデリケートな状態にあります。
これらはどれも「産後によくあること」とされがちですが、我慢して放っておくと産後うつや長期的な体調不良につながることも少なくありません。
今回は、西洋医学的な知識(病院での処方やお薬の考え方)も交えながら、産後の不調がなぜ起きるのかという仕組みと、「消耗した体を根本から補い、体質を立て直す漢方の考え方」について薬剤師が詳しく解説いたします。
【太陽堂における産後の不調(産後うつ・疲れ・母乳トラブル)の漢方ケアまとめ】
- 原因: 西洋医学では出産後のエストロゲン・プロゲステロンなどのホルモン急減や環境ストレスとされるが、漢方では出産・授乳に伴う「気(エネルギー)と血(栄養)の激しい消耗」や「自律神経(気滞)の乱れ」と捉える
- アプローチ: 不足した「気・血」をたっぷり補う生薬や、高ぶった気を静めて自律神経を和らげる生薬を用いた煎じ薬・粉薬で、心身の回復と体質の土台づくりを目指す
- 目安期間: 状態によるが、平均して1〜3ヶ月で疲労感や気分の揺らぎに穏やかな変化が見られ始め、半年〜1年程度で安定した状態が定着して服用終了となるケースが多い
産後の不調(産後うつ・疲れ)の西洋医学的なメカニズム
西洋医学において、産後の体調不良や情緒不安定(マタニティブルーズや産後うつ)の大きな原因は、女性ホルモンの急激な変化にあります。
妊娠中にピークを迎えていた女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)は、出産(胎盤の排出)とともにわずか数日で急激に低下します。このホルモンの落差に脳の視床下部や自律神経のコントロールが追いつかず、精神的な不安定や激しい疲労感が引き起こされるのです。
また、出産時の出血による「鉄欠乏性貧血」や、24時間態勢の授乳・夜泣きによる「慢性的な睡眠不足」も心身の衰弱に拍車をかけます。
病院(産婦人科や心療内科)を受診した場合、以下のようなアプローチが行われます。
- 鉄剤の処方: 血液検査で貧血が認められる場合、鉄分を直接補給する
- 西洋医学的な漢方処方: 当帰芍薬散や加味逍遙散など、産後の体調調整として医療用漢方が処方される
- 抗不安薬・抗うつ薬(SSRI等): 産後うつ症状が強い場合、精神状態を和らげるために慎重に検討・処方される
【比較表】産後の不調に対する西洋医学と漢方薬のアプローチの違い
西洋医学の処方や検査と、漢方薬による体質ケアには以下のような得意分野の違いがあります。
| 項目 | 西洋医学(病院のアプローチ) | 漢方薬・体質ケア |
| 主な目的 | 貧血の数値を改善する/急激な不安や抑うつ症状を和らげる | 出産で枯渇した「気・血」を根本から補い、自律神経を整える |
| 代表的なアプローチ | 鉄剤、抗不安薬、SSRI、睡眠導入剤、医療用漢方 | 人参・当帰・黄耆など体力を底上げする生薬、自律神経を整える処方 |
| 得意な状態 | 血液検査で明確な貧血がある時/強い抑うつで急ぎ対処が必要な時 | 検査で異常がない慢性疲労、授乳中の不安、母乳トラブル、育児疲れ |
| 特徴・メリット | 数値の補正や症状の直接的な緩和が早い | 母体へ負担をかけず、体に本来備わっている自然な回復力を高める |
【薬剤師コラム①】病院で「貧血の数値は正常」と言われたのに辛い理由
担当薬剤師:石川
産後健診などの血液検査で「ヘモグロビン数値は正常だから貧血ではありません」と言われたにもかかわらず、めまいやだるさ、立ちくらみが抜けないというご相談をよくいただきます。
西洋医学の検査では血中のヘモグロビン濃度を測定しますが、東洋医学でいう「血(けつ)」は、単なる血液成分だけでなく、全身や脳、子宮に届く栄養やホルモンそのものを指します。
検査数値に表れないレベルであっても、出産と授乳で体の「栄養(血)」は大きく消耗しています。数値上の問題がなくても、身体が「栄養が足りないよ」とSOSを出している状態(血虚:けっきょ)ですので、漢方でたっぷりと血を養っていくことが回復への近道となります。
漢方的に見る「産後の不調」の2大原因
漢方では、出産によって大量の「血(けつ)」と「気(き)」を消耗し、さらに精神的な緊張や疲労が重なることで自律神経の働きが乱れやすくなると考えます。
特に産後のお悩みは、大きく以下の2つのタイプに分けられます。
① エネルギーと栄養が不足した状態(気血両虚:きけつりょうきょ)
出産時の出血や毎日の授乳によって、体を支えるエネルギー(気)と栄養(血)がすっかり枯渇してしまった状態です。
【出やすいサイン】 疲れやすい、顔色が白い、めまい、息切れ、抜け毛、母乳の出が悪い・質が落ちる
② ストレスで自律神経が乱れた状態(気滞:きたい)
慣れない育児のプレッシャーや睡眠不足によって神経が張り詰め、気の巡りが滞ってしまった状態です。
【出やすいサイン】 イライラ、情緒不安定、理由もなく涙が出る、胸や脇の張り、ため息が多いなど、心の不調が中心になります。
| タイプ | 出やすいサイン | 漢方の方向性 |
| 気血両虚(消耗タイプ) | 疲れ・めまい・抜け毛・母乳の出が悪い | 気と血をたっぷり補い、体力を底上げする |
| 気滞(ストレスタイプ) | イライラ・涙もろい・胸や脇の張り | 気の巡りを整え、張った緊張をゆるめる |
どちらのタイプも「自力で体を立て直す力」が低下しているため、気合で乗り切ろうとするのではなく、回復に向けた土台を内側から整えるケアが必要です。
「産後、体質が変わった気がする」——疲れ・冷え・抜け毛・気分の波は、別々の不調ではありません
「産後から疲れが抜けない」「前は平気だった冷えがつらい」「抜け毛が急に増えた」「気分の波が大きくなった」——出産をきっかけに「体質が変わった気がする」と感じる方はとても多くいらっしゃいます。
漢方の見方では、これらは別々の不調ではなく、上でご説明した2つの状態から同時に出てくるサインです。どれか一つだけを追いかけるより、土台から順に整えるほうが近道になります。
| 「変わった」と感じるサイン | 主に関係する状態 | 漢方の見方 |
| 疲れが抜けない・体力が戻らない | ①気血両虚(消耗) | 出産と授乳で使ったエネルギー(気)と栄養(血)が、まだ補い切れていない |
| 冷えやすくなった(手足・お腹) | ①気血両虚(消耗) | 気と血が足りないと、体の隅々まで温もりが届きにくくなる。冷えは回復の遅れにもつながる |
| 抜け毛が増えた・髪が細くなった | ①気血両虚(消耗) | 漢方では髪を「血の余り」と考える。血が足りない時期は髪まで栄養が回りにくい |
| 気分の波・涙もろさ・イライラ | ②気滞(ストレス) | 張りつめた神経で気の巡りが滞り、感情の起伏として表れる |
太陽堂では「元の体質に戻す」というより、消耗した土台を補いながら、いま出ているサインを順番に整えていくという考え方でご提案します。産後1年以上たっていても、回復しきらないうちに次の疲れが重なっているケースは少なくありません。
▼「冷え」が一番気になる方、「抜け毛・髪が細くなった」が気になる方、「検査は正常なのに立ちくらみや顔色が気になる」方は、こちらも合わせてご覧ください。
【薬剤師コラム②】授乳中の「心の不調」とお薬の選択
担当薬剤師:前原
「気分の落ち込みや不眠がつらいけれど、授乳中だから心療内科のお薬を飲むのが不安」と葛藤されているお母さまはとても多くいらっしゃいます。
授乳中でも影響の少ない西洋薬は存在しますが、お母さま自身が不安を感じながら服用するのは大きなストレスになります。漢方薬は、お母さんの体を「気血を補って元気にする」「巡りを整えてリラックスさせる」ことで、授乳に配慮しながら心身の安定を育むことが可能です。
もちろん、症状が非常に強く生活が成り立たない場合は医療機関での適切な処方が優先されます。お一人で抱え込まず、ご自身の気持ちに一番寄り添える方法を一緒に考えていきましょう。
【改善実例】心身を整え、無事に2人目をご妊娠されたケース
【昭和58年生 女性】頭痛・倦怠感・気分の落ち込みが穏やかに
出産後、授乳が終わり生理が再開してから、頭痛やひどい倦怠感、気分の落ち込み、やる気が出ないなどの症状に悩み、ご相談に来られました。特に「生理前」が一番きついとのことでした。
ホルモンの急激な変化に体が追いついていない状態と見立て、太陽堂からは「ホルモンバランスと自律神経を優しく整える漢方薬」をご提案いたしました。
- 1ヶ月後: たまに飲めない日もあったそうですが、一番きつかった生理前になっても頭痛や倦怠感、気分の落ち込みが気にならなくなったとのこと。
- その後: ほとんどの症状が穏やかに落ち着き、毎日を元気に過ごせるように。その後、無事に2人目のご妊娠が分かり、めでたく漢方の体質ケアをご卒業(服用終了)されました。
※効果の感じ方や必要な期間には個人差があります。
自宅でできる産後ケアの養生法
漢方薬と併せて、日常生活で取り入れられる「産後の養生(生活習慣)」も、回復を後押しする大切な要素です。
- 十分な休養を最優先に: 赤ちゃんのお世話は24時間体制です。休めるときは家事を後回しにしてでも横になるようにしましょう。短時間でも「昼寝する」「温かいお茶を飲む」など、ご自身がリラックスできる時間を意識して作ってください。
- 鉄分・たんぱく質を意識した食事: 赤身肉・レバー・小松菜・豆製品など、消耗した「血」を補う食材を積極的に摂りましょう。黒豆やナツメなども妊産婦さんの強い味方です。
- 温活で体をしっかり温める: 冷えは血流を妨げ、母乳トラブルや回復の遅れにつながります。腹巻やレッグウォーマーを活用し、冷たい飲み物は避けて白湯などでお腹と足元を温めましょう。
どれも「無理せずできる範囲」でかまいません。少しずつご自身の体を労わることで、回復力は確実に高まっていきます。
産後ケアの漢方についてのよくあるご質問(FAQ)
授乳中でも漢方薬は飲めますか?
はい、授乳中でもお飲みいただける漢方薬は多くあります。
ただし、生薬の成分がお母さんの体を通して赤ちゃんに届くため、選び方に専門的な配慮が必要です(授乳中に適さない生薬もあります)。ご相談の際は必ず「授乳中であること」をお伝えください。母体の回復を助けつつ、赤ちゃんにも優しい最適な漢方をお選びします。
産後どのくらいから相談できますか?
産後すぐ(退院後すぐ)からでもご相談いただけます。
出産で激しく消耗した「気」と「血」を早めに立て直すことが、その後のスムーズな回復や母乳の安定につながります。「なんとなく体が重くて調子が悪い」という早い段階でのご相談も大歓迎です。
病院でもらった鉄剤や頭痛薬と漢方薬は併用できますか?
はい、基本的には併用いただけます。
鉄剤で鉄分を補いつつ、漢方薬で胃腸の消化吸収力を高めたり、全身の巡りを整えたりする相乗的なケアが可能です。お薬手帳をお持ちいただければ飲み合わせを確認いたしますので、安心してご相談ください。
「マタニティブルーズ」と「産後うつ」の違いは何ですか?受診の目安は?
期間と症状の強さが目安となります。
産後数日から始まり2週間程度で自然に落ち着く一過性の涙もろさや不安感は「マタニティブルーズ」と呼ばれ、生理的な現象です。一方、気分の落ち込みや不眠、強い焦燥感が2週間以上続き、日常生活や授乳に支障が出ている場合は「産後うつ」の可能性が考慮されます。その場合は我慢せず産婦人科や心療内科を受診しつつ、漢方で体のサポートを並行していくのがおすすめです。
産後から「体質が変わった」気がします。元に戻りますか?
「戻す」というより、出産と授乳で大きく消耗した「気」と「血」を補いながら、いま出ているサイン(疲れ・冷え・抜け毛・気分の波)を順番に整えていきます。
目安として1〜3ヶ月で疲労感や気分の揺らぎに変化が見え始め、半年〜1年ほどで安定していく方が多いです(個人差があります)。産後から時間がたっていてもご相談いただけますので、「いつ頃から、何が一番つらいか」をお聞かせください。
まとめ:産後うつや不調を防ぎ、前向きな育児へ
産後の女性の体は、心も体もとても繊細です。
「お母さんだからしっかりしなきゃ」と頑張りすぎてしまう方ほど、不調を我慢して悪化させてしまうことがあります。
漢方では、一人ひとりの体質を丁寧に見極め、ご自身が本来持っている「整える力」を取り戻すお手伝いをしています。枯渇した気力を補い、母乳の巡りを整えることで、心も自然と軽やかになっていきます。
「産後の疲れが全然取れない」
「感情の起伏が激しくて毎日がつらい」
「母乳トラブルが続いていて不安」
そんなときは、一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご連絡ください。無理をせず、一歩ずつ本来の笑顔で回復していけるよう、丁寧にサポートいたします。
産前(妊娠中)の漢方との付き合い方は、こちらのガイドをご覧ください。妊娠中〜産後に多い「痔」のお話も載せています。
関連する疾患・次に読むページ
太陽堂には、産後のデリケートなお悩み別に詳しい解説ページをご用意しています。ご自身の症状や不安に当てはまるページをぜひご覧ください。
太陽堂の特徴
”当薬局のHPをご覧いただき、ありがとうございます。
私たち太陽堂は「一人でも多くの方の笑顔を見る為に」という思いのもと開局しました。
漢方薬とお客様の出会いがお悩み、体質改善の一助になれれば幸いです。”
特徴その1.
当薬局では、お客様「ひとりひとりに合わせた漢方薬」をその場で調合いたします。
そのため初めてのご相談では、「約1時間~1時間半」ほど相談時間をいただいております。
(遠方のお客様や、お忙しいお客様へは配送の受付もしております。詳しくはお問合せください)
特徴その2.
お作りする漢方薬は、国内外から厳選した生薬の力を、余すことなくお客様に届けるため
「煎じ薬」をお勧めしております。
特徴その3.
当薬局は漢方専門の薬剤師が「得意とする専門分野」にわかれて日々研鑽しています。
お客様の健康を第一に考え、漢方の勉強会なども積極的に開催しております。
太陽堂がはじめての方へ
ご相談を考え始めた方は、まずこちらをどうぞ。
記事作成者 薬剤師 石川 満理奈

得意な疾患:胃腸疾患・耳鼻咽喉疾患・不妊症・婦人科・肝臓・腎臓
開業医だった父の影響で小さい頃から医療は身近に。
薬学部を卒業後、調剤薬局に勤務。
自分自身の胃腸の不調も漢方薬により改善。
よりご来局頂いた方の体質に沿った治療の選択をできるようになりたいという思いから「漢方の道」へ。
記事作成者 薬剤師 前原 信太郎

実績:伝統漢方研究会 2017年・2021年・2025年 学術発表
沖縄で開業医をしていた祖父と薬の話しをしていた事から薬剤師の道を目指すように。
調剤薬局の薬剤師として6年間勤務。
漢方の勉強をして、より患者さんの治療の選択肢の幅を広げたいという思いから「漢方の道」に。
調剤薬局も経験している為、西洋学の知識も勉強を積み今に至ります。












