
「やっと涼しい風が吹くようになり、過ごしやすくなったはずなのに、布団に入っても目が冴えてしまう…」
「夜中に何度も目が覚めてしまい、朝起きてもぐっすり眠れたという満足感がない…」
「眠りが浅いせいか、日中も頭にモヤがかかったようにぼんやりして、仕事や家事に集中できない…」
「ベッドに入ると、日中の出来事や明日の不安ばかりが頭を駆け巡り、焦れば焦るほど眠りから遠ざかってしまう…」
秋分を過ぎ、夜の時間がだんだんと長くなっていく「秋の夜長」。気温も下がり、本来であれば一年でいちばん快適に眠りにつける、睡眠に適した季節のはずです。しかし、当薬局の店頭に立っていると、「涼しくなったのに、真夏よりもかえって眠れない」「秋になってから急に不眠の症状が出始めた」というご相談をいただくことが、この時期は驚くほど多いのです。
「気候の変わり目だから、体が慣れればそのうち元の眠りに戻るだろう」と、不眠のサインを軽く見て放置していると、知らず知らずのうちに「眠りの借金(睡眠負債)」が積み重なっていきます。その結果、秋特有の気分の落ち込みや、冬本番に向けてのバリア機能の低下、慢性的な疲労感へと繋がってしまうことが少なくありません。
今回は、秋に寝つきが悪くなる複雑なメカニズムや、漢方における「心(しん)」と「血(けつ)」の深い関係、そして失われた眠りを取り戻すための食事と生活の養生法を、太陽堂の薬剤師が詳しく解説いたします。
【太陽堂が教える、秋の眠りの養生まとめ】
まずは、当薬局が考える秋の眠りのトラブルへのアプローチを簡潔にまとめました。
- 漢方の見立て(原因): 西洋医学では「夏に酷使した自律神経の疲れと、日照時間の変化による体内時計のずれ」とされる秋の不眠ですが、漢方では、夏の厳しい暑さと大量の汗によって、精神を落ち着かせるための大切な栄養分である「血(けつ)」と潤いを激しく消耗し、精神を司る「心(しん)」が休まる場所を失った「心血虚(しんけっきょ)」の状態に注目して原因を探ります。
- アプローチ(対策): なつめや百合根など「血を補い、心を落ち着かせる食材」を取り入れた夕食の工夫(養生)と、一人ひとりの体質に合わせたオーダーメイドの煎じ薬を通じて、季節特有の変化に負けない「自然と眠くなる体の土台づくり」をサポートします。体が本来持つ、穏やかなリズムを引き出します。
- 今後のステップ(根本ケア): 一時的な睡眠導入剤などで無理に眠らせるだけでなく、根本的な原因(血の不足や、考えごと・ストレスによる胃腸の弱りなど)を見極めるため、まずはじっくりとご相談を重ね、季節の変化にも揺らぎにくい長期的な体質と向き合っていきます。
【薬剤師 前原の視点】秋に眠れなくなるメカニズムと、西洋医学・漢方のアプローチ
こんにちは、薬剤師の前原です。
「あんなに暑かった夏が終わって、ようやく涼しくなったのだから、ぐっすり眠れるはずだ」と期待していたのに、いざ布団に入ると目が冴えてしまう。これは決してあなたの気のせいでも、努力が足りないわけでもありません。夏の間に体に積み重なった目に見えないダメージが、涼しくなった今になって「不眠」という形で表面化しているのです。
西洋医学の視点:夏に酷使した自律神経の疲労と、体内時計のずれ
西洋医学の視点から見ると、秋の不眠の大きな要因は「自律神経の疲労」と「体内時計の乱れ」の2つに分けられます。
夏の間、私たちの体は、猛暑の屋外とエアコンがキンキンに効いた室内の間を行き来し、激しい温度差の中で体温を一定に保つために自律神経をフル稼働させてきました。自律神経には、活動モードの「交感神経」とリラックスモードの「副交感神経」がありますが、過酷な夏を乗り切るために、体はずっと交感神経を優位にして戦い続けてきたのです。
季節が秋へと変わっても、この「常に戦闘モード(交感神経優位)」の癖はすぐには抜けません。体そのものは夏の疲れを引きずってクタクタに疲弊しているのに、神経だけが異常に高ぶっている状態、いわば「過労なのに脳が冴えきっている状態」に陥ってしまっています。これが、寝つきの悪さの大きな原因です。
さらに、秋は「日照時間」が急激に短くなる季節です。私たちの体は、朝の光を浴びることで体内時計をリセットし、そこから約14〜16時間後に「メラトニン」という睡眠ホルモンを分泌して自然な眠りにつくようプログラムされています。
しかし、夏休みの夜更かしの癖が残っていたり、日照時間が減ることで太陽の光を十分に浴びる機会が減ったりすると、この体内時計とメラトニンの分泌リズムがずれてしまいます。「頭で考えている眠るべき時刻」と「体が眠りに入る準備が整う時刻」がかみ合わず、布団の中で悶々とする時間が長くなってしまうのです。
西洋医学的なアプローチとしては、まず朝日を浴びる、入浴で深部体温をコントロールするといった「睡眠衛生(スリープハイジーン)」の改善を基本とします。その上で、日常生活に支障が出るほど辛い場合には、睡眠導入剤や、自律神経のバランスを調整するお薬を一時的に活用し、まずは「眠るという休息」を確保してコンディションをサポートすることが推奨されます。
漢方の視点:眠りの土台は「血(けつ)」。夏の汗で精神の住まいが空っぽに
一方、漢方の視点では、眠りのトラブルを五臓の「心(しん)」と、そこに関わる「血(けつ)」のバランスから深く読み解いていきます。
漢方において「心」は、単なる血液のポンプというだけでなく、人間の精神活動や意識、睡眠をコントロールする最高司令塔です。そして、漢方には「心は精神を宿し、血はその住まいである」という非常に重要な考え方があります。精神(心)が穏やかに安定するためには、たっぷりの栄養と潤いを含んだ「血」という落ち着ける家(土台)が必要不可欠なのです。
しかし、夏はどうだったでしょうか。漢方では「汗は心の液」と言い、大量の汗をかくことは、体の水分だけでなく、精神を安定させるための「血」の潤いまで一緒に消耗してしまう行為と考えます。
過酷な猛暑で汗をかき続け、夏バテで食欲が落ちて新しい血を作り出せなかった体は、秋を迎える頃には血がすっかり不足した「心血虚(しんけっきょ)」という状態に陥っています。
精神の住まいである「血」が空っぽになると、心は落ち着く場所を失い、まるで錨(いかり)を失った船のようにフワフワと波間に浮ついてしまいます。これが、「体が疲れているのに布団に入っても目が冴える」「嫌な夢ばかり見て夜中に何度も目が覚める」「眠りが浅く、ちょっとした物音で起きてしまう」という症状の正体です。
さらに、秋は「秋の日はつるべ落とし」と言われるように、日暮れが早く、もの悲しさを感じやすい季節です。漢方では、秋は考えごとや不安、心配ごとが増えやすい季節とされています。考えすぎたり思い悩んだりすることは、消化吸収を担う胃腸(脾:ひ)の働きをダイレクトに弱らせます。脾が弱ると、食事から新しい血を作り出す力が低下するため、「眠れない→夜中に不安なことを考える→胃腸が弱って血が減る→さらに眠れなくなる」という負のサイクルに陥りがちです。
漢方では、このような不眠に対し、不足した血をたっぷりと補って精神の住まいを強固に立て直し、高ぶった神経を優しく鎮めるアプローチ(養血安神:ようけつあんじんなどの考え方)を用いて、「無理に眠ろうと頑張らなくても、自然と眠りに落ちる」健やかな体の土台づくりを内側からサポートしていきます。
【薬剤師 石川の視点】心を落ち着かせる、秋の夜の食事と過ごし方
薬剤師の石川です。
「なんとかして眠らなきゃ」と布団の中で焦れば焦るほど、交感神経が刺激されて眠りは遠ざかってしまいます。良質な眠りは「夜、布団に入ってからの努力」ではなく、「日中から夕方にかけての準備」で決まります。血を補う食材選びと、神経の高ぶりを持ち越さないための夜の習慣を、少しずつ日常に取り入れてみましょう。
「補血安神(ほけつあんじん)」の食材を夕食にひと品加える
漢方において、不足した血を補い(補血)、フワフワと浮ついた精神を落ち着かせる(安神)働きを持つ食材を、夕食のメニューに意識して取り入れてみてください。
- おすすめの食材: なつめ、百合根(ゆりね)、竜眼肉(りゅうがんにく)、蓮の実(はすのみ)、卵、牡蠣、小麦(全粒粉など)、ほうれん草、黒ごま など。
例えば、ホクホクとした「百合根」は、心に潤いを与えて不安感や焦燥感を和らげる優れた食材です。百合根を入れた茶碗蒸しや、卵を落とした温かいお味噌汁、ほうれん草と牡蠣のソテーなどは、胃腸に負担をかけずに眠りの土台となる血を養う理想的な夜のメニューです。
また、赤い木の実である「なつめ」は、気と血を同時に補う強力な味方です。寝る前のリラックスタイムに、なつめを数個入れた温かいお茶(なつめ茶)をゆっくりと飲む習慣は、心をホッとほぐしてくれます。
逆に、カフェインを多く含むコーヒー、緑茶、エナジードリンクなどは、夕方以降はピタッと控えるようにしてください。
寝る90分前の「ぬるめ入浴」で深部体温をコントロールする
人は、体の内部の温度(深部体温)がグッと下がっていくタイミングで、強い眠気を感じるようにできています。このメカニズムを味方につけるのが「入浴」です。
布団に入る90分ほど前に、38度〜40度くらいの「少しぬるめのお湯」に15分ほどゆっくりと浸かってください。熱すぎるお湯は交感神経を刺激して逆効果です。ぬるめのお湯で体の芯まで一度温めると、お風呂上がりに汗が蒸発する過程で深部体温がスムーズに下がり始め、ちょうど布団に入る90分後に「自然な眠気」の波がやってきます。
夜の「スマホ断ち」と、光のコントロール
漢方には「目を使うことは、血を激しく消耗する」という教えがあります。夜遅くまでスマートフォンやパソコンの画面を見続けることは、目の酷使によって眠りの土台である血を減らしてしまう行為です。
さらに、画面から発せられるブルーライトなどの強い光は、脳に「まだ昼間だ」と錯覚させ、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を強力にストップさせてしまいます。
布団に入る30分〜1時間前には、思い切ってすべての画面を閉じましょう。部屋の照明も、白くて明るい蛍光灯から、暖色系のオレンジ色の間接照明に切り替えるのが理想的です。薄暗い部屋で、好きな香りのアロマを焚いたり、ゆったりとした音楽を聴いたりして、脳に「もうすぐ休む時間だよ」とサインを送る儀式を作ることが大切です。
「早く寝る」ことより「同じ時刻に起きる」ことから始める
不眠が続くと、どうしても「今日の夜こそは早く寝なくては!」と焦ってしまいます。しかし、長年の習慣でずれてしまった体内時計は、寝る時刻を急に早めようとしても、体はすぐには切り替わってくれません。
まず整えるべきは、夜ではなく「朝」です。夜にどれだけ眠れなかったとしても、「毎朝必ず同じ時刻に起きる」ことを徹底してみてください。そして、起きたらすぐにカーテンを開け、窓越しでも良いので「朝の太陽の光」を15秒ほど浴びます。この光の刺激が脳に届くことで、体内時計がリセットされ、そこから約15時間後に自然とメラトニンが分泌されるようにスイッチが入ります。
日中にどうしても眠気やだるさを感じる場合は、お昼休みに昼寝(パワーナップ)をしても構いませんが、「15時までに、20分以内」にとどめることが、夜の睡眠に影響を出さないコツです。
【比較表】秋の眠りを取り戻す!OK・NG行動リスト
| カテゴリ | 〇 おすすめ(血を補い、神経を優しく鎮める) | × 要注意(血を消耗し、脳を不自然に覚醒させる) |
| 夕食・飲み物 | 百合根、卵、なつめ茶など、温かく消化の良いメニュー (胃腸に負担をかけずに栄養を吸収させ、眠りの土台となる「血」を補う) | 夕方以降のコーヒー・緑茶、辛い食事、エナジードリンク (カフェインや香辛料が神経を過剰に刺激し、眠気を遠ざけてしまう) |
| 夜の過ごし方 | 寝る90分前のぬるめ入浴と、間接照明でのリラックス (体温のリズムで自然な眠気を呼び込み、メラトニンの分泌を促す) | 布団の中でスマホを見続ける、熱すぎるお風呂に入る (強い光や熱で交感神経が優位になり、目の酷使で「血」がさらに減る) |
| 生活リズム | 起きる時刻を毎日固定し、朝一番に太陽の光を浴びる (体内時計のスイッチを押し、夜の定時に眠気が訪れるサイクルを作る) | 眠れなかった翌日に、昼過ぎまで「寝だめ」をする (体内時計がさらに狂い、その日の夜も眠れなくなる悪循環に陥る) |
秋の眠りに関するよくある質問(FAQ)
秋になると、嫌な夢ばかり見て、眠りが浅い気がします。
夢が多いのは、血の不足によって精神が浮ついているサインです。
漢方では、眠りが浅い、何度も目が覚める、夢ばかり見るという状態は「心血虚(しんけっきょ)」の典型的なサインと考えます。夏の大量の汗や疲労の蓄積によって精神の土台である血が減っている方に、秋口に多く見られる状態です。なつめや卵、ほうれん草などの血を補う食材を取り入れつつ、状態が続くようであれば体質からのケアをぜひご相談ください。
病院でもらった睡眠薬や、市販の睡眠改善薬と、漢方は併用できますか?
基本的には併用可能です。自己判断での急な中止は避けてください。
今ある「全く眠れない」という辛さは西洋医学のお薬でコントロールしながら、漢方を用いて「お薬に頼らなくても自然に眠れる体の土台」を並行してじっくり育てていくのは、非常に理にかなった進め方です。漢方で土台が整ってきたら、処方薬を減らしたい場合は必ず処方医と相談しながら段階的に進めましょう。具体的なお薬との飲み合わせについては、太陽堂の薬剤師にご相談ください。
よく「ゴールデンタイム」と言いますが、何時までに寝るのが良いですか?
時刻そのものより、「眠くなってから布団に入る」ことが最も大切です。
漢方では、その日の23時頃までに休むと、陰のエネルギーや血がしっかりと養われると考えます。しかし、全く眠くないのに「23時だから」と無理に布団で粘り続けると、脳が「布団=眠れない苦しい場所」と学習してしまいます。起きる時刻を固定して眠気のリズムを作り、自然な眠気がやってきたら23時前後までに布団へ入る、というのが理想的な形です。眠れない時は一度布団から出て、静かに過ごすのも良い方法です。
夜中に必ず同じ時間(例えば午前3時)に目が覚めてしまいます。
漢方では、時間帯によって弱っている臓器からのサインと読み解くことがあります。
中途覚醒でお悩みの場合、毎日決まった時間に目が覚めることがあります。漢方の「子午流注(しごるちゅう)」という考え方では、午前1時〜3時は「肝」、午前3時〜5時は「肺」の時間とされています。例えば3時頃に目が覚めるなら、ストレスで肝が高ぶっているか、秋の乾燥で肺がダメージを受けているのかもしれません。体質に合わせてアプローチを細かく調整することが可能です。
まとめ:血を養い、「眠ろうと頑張らない」穏やかな秋の夜へ
「涼しくなったのに、なぜか眠れない。明日も仕事があるのに…」
その焦りと寝つきの悪さは、決してあなたの心が弱いからではありません。夏の過酷な暑さと大量の汗、そして日々の疲労によって、眠りの土台となる「血」と潤いがすっかり消耗し、精神が落ち着く場所を失ってしまっているという、体からのSOSサインなのです。
夕食にひと品の血を補う食材を加える、寝る90分前の入浴で体温をコントロールする、そして起きる時刻を固定するという日々の養生からスタートしてみてください。そして、漢方の視点を取り入れて内側から「心」と「血」を丁寧に養うことで、秋の夜長を味方につける、健やかで深い眠りの土台を作ることができます。
「秋になってから不眠が続いていて辛い」「睡眠薬をずっと飲み続けるのが不安で、自分の力で眠れるようになりたい」という方は、ぜひ太陽堂までお気軽にご相談ください。お一人おひとりの体質や生活習慣に合わせた、無理のない養生法をご提案いたします。
関連ページ
太陽堂では、眠りのお悩みだけでなく、心と体の様々なお悩みに対する漢方サポートを行っております。気になる症状がございましたら、以下のページもぜひご覧ください。
太陽堂の特徴
”当薬局のHPをご覧いただき、ありがとうございます。
私たち太陽堂は「一人でも多くの方の笑顔を見る為に」という思いのもと開局しました。
漢方薬とお客様の出会いがお悩み、体質改善の一助になれれば幸いです。”
特徴その1.
当薬局では、お客様「ひとりひとりに合わせた漢方薬」をその場で調合いたします。
そのため初めてのご相談では、「約1時間~1時間半」ほど相談時間をいただいております。
(遠方のお客様や、お忙しいお客様へは配送の受付もしております。詳しくはお問合せください)
特徴その2.
お作りする漢方薬は、国内外から厳選した生薬の力を、余すことなくお客様に届けるため
「煎じ薬」をお勧めしております。
特徴その3.
当薬局は漢方専門の薬剤師が「得意とする専門分野」にわかれて日々研鑽しています。
お客様の健康を第一に考え、漢方の勉強会なども積極的に開催しております。
記事作成者 薬剤師 前原 信太郎

実績:伝統漢方研究会 2017年・2021年・2025年 学術発表
沖縄で開業医をしていた祖父と薬の話しをしていた事から薬剤師の道を目指すように。
調剤薬局の薬剤師として6年間勤務。
漢方の勉強をして、より患者さんの治療の選択肢の幅を広げたいという思いから「漢方の道」に。
調剤薬局も経験している為、西洋学の知識も勉強を積み今に至ります。
記事作成者 薬剤師 石川 満理奈

得意な疾患:胃腸疾患・耳鼻咽喉疾患・不妊症・婦人科・肝臓・腎臓
開業医だった父の影響で小さい頃から医療は身近に。
薬学部を卒業後、調剤薬局に勤務。
自分自身の胃腸の不調も漢方薬により改善。
よりご来局頂いた方の体質に沿った治療の選択をできるようになりたいという思いから「漢方の道」へ。















