
「仕事中、昼間の眠気がひどくて頭が働かないのに、夜ベッドに入ると不思議と目が冴えてしまって寝つけない…」
「連休明けでもないのに、毎朝起きるのが辛くて体が鉛のように重い。午前中は全くエンジンがかからない…」
「もう涼しくなって夏の疲れは抜けたはずなのに、なんとなく調子が出ない、だるい日がダラダラと続いている…」
9月22日ごろの「秋分(しゅうぶん)」。暑さ寒さも彼岸までと言われるように、この日は昼と夜の長さがちょうど同じになる節気(せっき:昔の暦で季節の移り変わりを表す目印)です。そして、この日を境にして、いよいよ夜の時間が昼の時間よりも長くなっていきます。
実はこの「昼と夜の長さの逆転」は、私たちの体が感じている以上に、非常に大きな環境の変化です。
外の季節は着実に秋から冬へと進んでいるのに、私たちが「日の長い夏モード」のまま夜更かしなどの生活を続けていると、体の中で一日のリズムを刻んでいる「体内時計」と、実際の光の環境が少しずつズレていってしまいます。このズレこそが、「眠い・起きられない・調子が出ない」という、原因の分からない「なんとなくの不調(秋バテ)」が長引く大きな原因になっているのです。
今回は、秋分の頃に体内時計がズレやすくなるメカニズムと、漢方における「陰と陽の切り替え」という奥深い考え方、そして体のリズムを秋モードへとスムーズに合わせ直すための食事と生活の養生法を、太陽堂の薬剤師が詳しく解説いたします。
【太陽堂が教える、秋分の「なんとなく不調」養生まとめ】
まずは、当薬局が考える秋分の頃の不調へのアプローチを簡潔にまとめました。
- 漢方の見立て(原因): 西洋医学では「日の長さの急激な変化に体内時計の調整が追いつかず、睡眠と覚醒のリズム(概日リズム)が乱れた状態」とされるこの時期の不調ですが、漢方では、活動的で熱を持つ「陽」の季節(夏)から、休息と静けさへ向かう「陰」の季節(秋冬)への切り替わりに体がついていけず、「陰陽のバランスが崩れかけている状態」に注目して原因を探ります。
- アプローチ(対策): 朝の光と温かい朝食で体内時計をリセットする習慣や、夜更かしを手放して「陰(潤いや休息)」を養う過ごし方(養生)と、お一人おひとりの体質に合わせたオーダーメイドの煎じ薬を通じて、季節の切り替わりに振り回されない「リズムの整った健やかな体の土台づくり」をサポートします。
- 今後のステップ(根本ケア): カフェインやエナジードリンクで一時的に眠気をごまかすだけでなく、根本的な原因(自律神経・体内時計の乱れや、夏から持ち越したエネルギーの消耗など)を見極めるため、まずはじっくりとご相談を重ね、来るべき厳しい冬に向けて「無理なく休める長期的な体質」と向き合っていきます。
【薬剤師 前原の視点】秋分の頃に「なんとなく不調」が増えるメカニズムと、西洋医学・漢方のアプローチ
こんにちは、薬剤師の前原です。
秋分の頃に感じる「だるい、眠い」といった不調は、発熱などの分かりやすい症状がないため、「単なる気のせいかな」「自分の怠けかな」で片付けられがちです。しかし、体の仕組みから紐解いていくと、この時期特有のちゃんとした理由が隠されていることが分かります。
西洋医学の視点:1日2〜3分ずつ早まる日没のスピードに、体内時計が追いつかない
秋分を挟んだ秋の時期は、日没の時刻が1日あたり約2〜3分のペースでどんどん早まっていく、1年の中でも「光の環境の変化のスピードが特に速い時期」です。
私たちの体の中で睡眠や覚醒、ホルモン分泌のリズムを24時間周期で刻んでいる「体内時計(概日リズム)」は、朝の強い光を浴びることでリセットされ、暗くなると眠りを促すホルモンである「メラトニン」が分泌される、という仕組みで動いています。
ところが、日没が早まる自然のスピードに対して、私たちが夜遅くまで明るい部屋で起きている「夏のままの生活リズム」を続けていると、体の中で大きなズレが生まれます。「外はもうとっくに夜なのに、体はまだ夕方だと思っている」「朝は明るくなるのが遅くて、体はまだ夜中だと勘違いして起きられない」という状態です。
このズレは、いわば「ごく軽い時差ボケ」が毎日続いているようなものです。この時差ボケ状態が自律神経を乱し、昼間の強烈な眠気、朝の起き上がれなさ、夜の寝つきの悪さ、頭の働きの鈍さといった「なんとなくの不調」として現れるのです。
西洋医学的な視点では、この不調を解消するためには「起きる時間を毎日一定にする」「朝起きたらすぐに太陽の光を浴びる」「夜は部屋の照明を落とす」といった、光による体内時計のリセット習慣が対策の基本となります。もし強い眠気や気分の落ち込みが長く続いて生活に支障が出ている場合は、無理をせずに医療機関にご相談ください。
漢方の視点:「陽」から「陰」へ。切り替えが下手な体は、厳しい冬に向けて激しく消耗する
一方、漢方の視点では、1年を「陽(活動・熱・昼)」と「陰(休息・潤い・夜)」という2つのエネルギーの巡りとして捉えます。
夏は「陽」の力が最も極まる季節であり、冬は「陰」の力が極まる季節です。そして「秋分」は、この陽と陰の力がちょうど半分ずつになり、これ以降は陰が主役になっていく「大きな切り替えのタイミング」なのです。
この陰陽が切り替わる時期に、夏と同じような感覚で夜遅くまで活動し、休息の時間を削るような生活を続けているとどうなるでしょうか。秋からは本来、「陰(エネルギーや潤い)」を体の中にゆっくりと蓄え始めるべき時期です。それなのに活動(陽)ばかりを続けていると、エネルギーの残高がすっかり減ったまま、1年で最も寒く厳しい「冬」に突入することになってしまいます。これでは、冬に風邪を引きやすくなったり、冷え性に悩まされたりするのは当然です。
「秋の夜長」という言葉がありますが、これは決して「夜更かしをして趣味を楽しみなさい」というすすめではありません。本来は、「夜が長くなったのだから、その分だけ活動を控えて、しっかりと体を休めなさい」という、季節からの優しいメッセージなのです。
漢方では、この時期の不調に対し、日中の活動を支えるエネルギーである「気」をしっかりと補いながら、夜の質の高い休息を支える「陰」を養うアプローチ(補気:ほき、滋陰:じいんなどの考え方)を用いて、季節の大きな切り替えにスムーズに対応できる、陰陽のバランスが整った体づくりを内側からサポートしていきます。
【薬剤師 椙田の視点】リズムを秋モードに合わせ直す、秋分の食事と生活養生
薬剤師の椙田です。
秋分からの生活養生の合言葉は、「朝を強く、夜を静かに」です。体内時計というものは目には見えませんが、毎日のちょっとした習慣の積み重ねで、確実に「秋モード」へと合わせ直すことができます。
朝は「光・温かい朝食・同じ時間」で、時計の針を毎日合わせ直す
ズレてしまった体内時計をリセットするための「一番のスイッチ」は朝の光であり、「二番目のスイッチ」は朝食です。
まず、起きる時間を毎日そろえること。そして起きたらすぐにカーテンを開けて、朝の光を目に入れること。曇りの日でも窓際の光は十分に明るく、脳の時計を「朝だ」とリセットしてくれます。
さらに、温かいお味噌汁やスープなどの朝食を摂ることで、今度は「お腹の時計(末梢時計)」が目覚めます。この2つのスイッチを毎朝入れるだけで、時差ボケ状態の針は毎日きちんと合い直されます。
ここで注意したいのが、休日の「寝だめ」です。平日の睡眠不足を取り戻そうと、休日に昼過ぎまで寝てしまうと、せっかく合わせた時計の針がまた大きく狂ってしまいます。休日でも、起きる時間は平日との差を「1時間以内」にとどめるのが、リズムを崩さないための鉄則です。
夕方以降は「照明・スマホ・カフェイン」を少しずつ引き算する
夜の時間が長くなる秋は、その夜の過ごし方が体の回復に与える影響も大きくなります。夏と同じように強い刺激を受け続けるのではなく、少しずつ「引き算」を意識してください。
日が沈んだら、部屋のメインの照明を少し落とし、オレンジ系の間接照明に切り替えるのが理想です。そして、寝る1時間前からはスマホやパソコンの強いブルーライトを避けること。これにより、睡眠ホルモンであるメラトニンが自然に分泌されやすくなります。また、睡眠の質を下げるカフェイン(コーヒーや緑茶)は、午後3時以降は控えめにしましょう。
この引き算を心がけるだけで、長くなった秋の夜が、体を削る「消耗の時間」から、体を労わる「回復の時間」へと変わっていきます。
- 夜におすすめの習慣: カフェインレスの温かいハーブティーや白湯を飲む、軽いストレッチで体をほぐす、ぬるめの入浴でリラックスする、など。
「早寝30分」の積み立てで、冬に備えて陰(エネルギー)を蓄える
秋分からの一番シンプルで、かつ最も強力な養生は、「いつもより30分早く布団に入る」ことです。
夜が長くなる自然のリズムに合わせて、私たちの休息時間も少しずつ増やしていく。そうすることで、夏の猛暑で消耗した気(エネルギー)と潤いが着実に回復し、やがて来る冬の厳しい寒さに耐えるための「体力の貯金」になります。「なんとなく調子が出ない、だるい」が続いている方ほど、まずは今日から、この30分の早寝から始めてみてください。
【比較表】秋分からのリズムを整える!OK・NG行動リスト
| カテゴリ | 〇 おすすめ(時計を合わせ、陰を蓄える) | × 要注意(ズレを深め、消耗を続ける) |
| 朝の習慣 | 毎日同じ時間に起きて、光と温かい朝食で時計を合わせる (体内時計が毎朝リセットされ、昼の異常な眠気と朝のつらさが減っていく) | 休日に昼まで寝だめをして、朝の光を浴びない (時計が数時間単位で狂い、週明けの月曜の朝が強烈な時差ボケ状態になる) |
| 夜の過ごし方 | 日没後は照明を少し落とし、寝る前はスマホから離れる (眠りをうながすホルモンが自然に増え、寝つきと睡眠の質が良くなる) | 夏の感覚のまま、強い光を浴びて夜更かしし活動し続ける (陰を蓄えるべき時期に消耗が続き、なんとなく不調が冬まで長引く) |
| 体の整え方 | いつもより30分早く布団に入り、休息を積み立てる (夏の激しい消耗が回復し、冬に向けた体力の貯金がしっかりとできる) | カフェインやエナジードリンクで眠気を無理やり消して頑張る (リズムの乱れが根本から直らず、夜の眠りの質がさらに落ちて悪循環に陥る) |
秋分の養生に関するよくある質問(FAQ)
昼間の眠気がひどくて仕事に集中できません。昼寝をしても良いですか?
「午後3時までの、20分以内」であれば、昼寝は非常におすすめできる養生です。
短い昼寝(パワーナップ)は、午後の眠気を劇的に減らし、頭をすっきりさせて集中力を回復させてくれます。ただし、30分を超える深い昼寝や、夕方以降になってからの居眠りは、夜のメインの眠りを浅くしてしまい、結果的に体内時計のズレをかえって深くしてしまうためNGです。「午後の早い時間に、机にうつ伏せなど、あえて浅い姿勢で20分まで」を目安にしてください。それでも毎日強い眠気が続く場合は、夜の睡眠の質自体が大きく落ちているサインですので、生活リズムの見直しとあわせて漢方でのサポートをご相談ください。
秋分の頃から、なんだか気分も少し沈みがちで憂鬱です。これも関係がありますか?
大いに関係があります。日照時間の減少が始まる時期なので、「朝の光の習慣」が両方に効きます。
秋分を境に夜が長くなるということは、私たちが生活の中で太陽の光を浴びられる時間が減っていくということです。光は体内時計を合わせるだけでなく、心の安定物質であるセロトニンの分泌にも深く関わっています。そのため、この時期からリズムの乱れと同時に、気分の沈みや寂しさを感じる方は少なくありません。幸い、対策の柱はどちらも同じで、「朝の光をしっかりと浴びて、リズムを整える」ことです。なお、気分の落ち込みが2週間以上毎日続く、生活に支障が出ているという場合は、我慢せずに心療内科や精神科などの受診を最優先してください。
リズムを整えようと努力しているのですが、疲れやだるさがなかなか抜けません。
それは、夏の消耗(気と潤いの不足)がまだ回復しきっていない可能性があります。
体内時計のズレによる時差ボケと、夏の間に消耗したエネルギーの不足(夏バテの持ち越し)は、実は別々の原因です。朝起きて光を浴びるなどリズムを整えても疲れが残る場合は、根本的なエネルギーの立て直しがまだ済んでいないサインかもしれません。胃腸に優しい温かい食事で回復の土台を作りながら、必要に応じて漢方で「気」と「潤い」をしっかりと補ってあげることをおすすめします。(※ただし、極度のだるさや疲れが1ヶ月以上続く場合や、体重の減少・微熱などを伴う場合は、別の病気が隠れている可能性もあるため、一度医療機関での検査を受けてください。)
まとめ:夜が長くなる季節は、「休む力」を育てる季節
「秋分を過ぎてから、なんとなく調子が出ない。体がだるくて眠い…」
その不調は、決してあなたの怠けでも気のせいでもありません。昼と夜の長さが逆転するという、地球の大きな環境の変化に、あなたの体内時計が必死に追いつこうとしているサインなのです。
朝の光と朝食で時計の針を合わせ、夜は照明とスマホを引き算し、いつもより30分だけ早く布団に入る。このシンプルで優しい養生を続けるだけで、少しずつ長くなっていく夜は、体を削る「消耗の時間」から、明日への活力を養う「回復の時間」へと変わっていきます。
そして、漢方の視点で夏の消耗を内側から立て直し、「陰(エネルギー)」をしっかりと蓄えていけば、厳しい冬をラクに越えられる体の土台を、この秋のうちに完成させることができます。
「自分なりにリズムを整えても、一向に不調が取れない」「毎年、秋分を過ぎたあたりから冬にかけて必ず調子を崩してしまう」という方は、ぜひ太陽堂までお気軽にご相談ください。お一人おひとりの体質と生活スタイルに合わせた、無理のない養生プランをご提案いたします。
関連ページ
太陽堂では、季節のお悩みだけでなく、心と体の様々なお悩みに対する漢方サポートを行っております。気になる症状がございましたら、以下のページもぜひご覧ください。
太陽堂の特徴
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記事作成者 薬剤師 前原 信太郎

実績:伝統漢方研究会 2017年・2021年・2025年 学術発表
沖縄で開業医をしていた祖父と薬の話しをしていた事から薬剤師の道を目指すように。
調剤薬局の薬剤師として6年間勤務。
漢方の勉強をして、より患者さんの治療の選択肢の幅を広げたいという思いから「漢方の道」に。
調剤薬局も経験している為、西洋学の知識も勉強を積み今に至ります。
記事作成者 薬剤師 椙田 彩純

担当疾患;循環器、身体の痛み
臨床検査技師の両親の影響で、幼い頃から医療に関心を持つ。
大学卒業後、病院薬剤師として勤務。
対症療法が中心の現場で、繰り返す入退院や長期投薬を目の当たりにし、「もっと力になれる方法はないか」と模索する中で漢方と出会う。
現在は漢方の持つ幅広さと可能性に魅了され、一人ひとりの体質に寄り添った根本改善を追求している。















