
「排便のたびに肛門から何かが出てきて、指で押し戻さないといけない」
「病院で手術を勧められたけれど、切るのはどうしても避けたい」
「場所が場所だけに恥ずかしくて誰にも相談できず、市販の軟膏でなんとかしのいでいる」
このようなお悩みを、誰にも言えず一人で抱え込んでいませんか?
実は「脱肛(肛門粘膜脱・内痔核脱出)」には、西洋医学・東洋医学の双方から見て「内臓や粘膜を持ち上げる力が弱っているタイプ」と「痔核(いぼ痔)に引っ張られて出てくるタイプ」の大きく2つのパターンがあり、それぞれ対策やアプローチが異なります。
今回は、西洋医学的なメカニズムや病院での治療法を整理しながら、脱肛が起こる仕組みと2つのタイプの見分け方、そして「手術しかない」と諦める前に知ってほしい、体の内側から引き上げる漢方アプローチについて、薬剤師の視点から詳しく解説いたします。
【この記事の結論:「排便時に出てくる脱肛」に対する漢方の考え方】
- 脱肛の正体(原因): 西洋医学では加齢や出産等による肛門支持組織(クッション組織)の弛緩や巨大化した内痔核の脱出とされますが、漢方では内臓を持ち上げるエネルギー不足(中気下陥)や血の滞り(瘀血)による痔核形成が根本原因と考えます。
- 漢方の解決策: 外用薬で一時的に抑えるだけでなく、持ち上げる力(気)を強力に補う生薬や、うっ血(瘀血)を和らげる生薬を用いることで、引き上げる力を取り戻し、脱肛の頻度や不快感を軽減する体質づくりを目指します。
- 対象となる主な疾患・お悩み: 脱肛(肛門粘膜脱)、内痔核(いぼ痔・脱出を伴うもの)、切れ痔(裂肛)、痔ろう(肛門周囲膿瘍)、排便時の肛門下垂感
※脱肛に対する太陽堂の具体的な漢方アプローチについては、こちらの【脱肛(肛門粘膜脱)の漢方サポートページ】もあわせてご覧ください。
1. なぜ「出てきてしまう」の?脱肛の西洋医学的なメカニズムと病院での治療
肛門の内側にある直腸の粘膜や「内痔核(ないじかく:肛門内側のいぼ痔)」は、本来「トンプソン靭帯」と呼ばれる支持組織や、血管・弾力繊維が豊かな「クッション組織」によって、しっかりと体内の正しい位置に固定されています。
しかし、以下のような要因が重なると、脱肛が引き起こされます。
- 出産による骨盤底筋群や支持組織のダメージ
- 加齢に伴う組織の弾力性低下・弛緩
- 慢性的な便秘による強い「いきみ」や長時間の排便習慣
- デスクワークや立ち仕事など、長時間の同体勢による下半身のうっ血
これらの負担が日常的にかかると、支えていたクッション組織が壊れて緩み、排便時の圧力に耐えきれなくなった粘膜や痔核が肛門の外へ押し出されてしまうのです。
西洋医学(病院)における臨床病期(ゴリガー分類)
内痔核を伴う脱肛は、西洋医学的に以下の4つの病期(I度〜IV度)に分類されます。
- I度: 排便時に肛門内で膨らむが、外には飛び出さない。
- II度: 排便時に外へ飛び出すが、排便が終わると自然に中に戻る。
- III度: 排便時に飛び出し、自然には戻らず指や手で押し戻す必要がある。
- IV度: 常に外に飛び出したままで、押し戻してもすぐにまた出てきてしまう(常時脱出)。
病院で行われる主な治療法
- 保存的療法(軟膏・座薬・便通指導): 注入軟膏(強力ポステリザン、プロクトセディルなど)や緩下剤(酸化マグネシウム等)を使い、炎症や痛みを鎮め、便を柔らかくして負担を減らします。
- ALTA療法(ジオン注射): III度までの脱出を伴う内痔核に対し、硬化剤(ジオン)を直接注射して血流を遮断し、組織を固着・縮小させる治療です。
- 手術療法(結紮切除術:LE療法など): 脱出する痔核や緩んだ粘膜を外科的に切除し、根本的に形態を修復する手術です。
病院ではIII度〜IV度に進行すると手術や注射療法を提案されるのが一般的ですが、「いきなり切るのは怖い」「仕事を長期間休めない」という理由から、別の選択肢を探される方が多くいらっしゃいます。
2. 【要注意】すぐに医療機関へ行くべき危険なサイン(嵌頓脱肛)
飛び出してきた部分が押し戻しても中に戻らなくなり、全周囲に激しく腫れ上がって激痛を伴い、出血が止まらない場合は、「嵌頓痔核(かんとんじかく)」と呼ばれる緊急性の高い状態に陥っている可能性があります。
これは、外に出た痔核や粘膜が肛門の筋肉によって強く締め付けられ、血液の循環が完全に止まって組織が壊死(血栓化)を起こし始めている状態です。
このような急性の激しい痛みを伴う場合は、漢方薬を試す前に、迷わずすぐに肛門科や消化器外科などの専門医療機関を受診してください。
3. 【薬剤師コラム】漢方で紐解く「脱肛の2つのタイプ」
ここからは、太陽堂の薬剤師2名が、東洋医学(漢方)の視点から脱肛が起こる2つのタイプとその見立てについて詳しく解説いたします。
【薬剤師コラム①】内臓を「持ち上げる力」が弱っているタイプ
担当薬剤師:前原 信太郎
漢方では、内臓や粘膜を体内の正しい位置へ持ち上げてキープするためには、「中気(ちゅうき)」と呼ばれる上へ引き上げる生命エネルギー(気)が必要不可欠であると考えます。
長年の過労、出産による消耗、加齢、あるいは胃腸の弱りによってこの「中気」が著しく不足すると、粘膜を支えきれなくなり、下へ下へと落ち込んできてしまいます。この病態を東洋医学で「中気下陥(ちゅうきかかん)」と呼びます。
このタイプの方には、減ってしまった中気を強力に補い、下垂した組織をキュッと内側へ持ち上げる生薬(黄耆・人参・升麻・柴胡などを含む補中益気湯の類)を用いて、体質の底上げを行います。出産を経験された女性に非常に多いタイプですが、胃腸が弱く疲れやすい男性にも見られます。
【薬剤師コラム②】痔核(いぼ痔)に引っ張られるタイプ
担当薬剤師:石川 満理奈
もうひとつが、肛門の内側に「大きな内痔核(いぼ痔)」が存在するタイプの脱肛です。
この場合、排便のたびに通過する便がいぼ痔を巻き込み、いぼの重みと引っぱりによって粘膜ごと肛門の外へ引きずり出されてしまいます。そのため、ただ持ち上げるエネルギーを補うだけでは十分な変化が得られません。
東洋医学において、いぼ痔(痔核)は肛門周囲の静脈血流が滞って出来た「瘀血(おけつ)」の塊と捉えます。そのため、滞った血流をスムーズにし、うっ血を和らげる生薬(牡丹皮・桃仁・川芎など)を用いて、まずは痔核そのものを小さく引き締めていくアプローチを最優先します。
実際、痔核のケアを優先して進めたことで、便に引っ張られなくなり、脱肛の頻度が大幅に減っていくケースが大変多く見られます。
4. 【比較表】あなたの脱肛はどっち?タイプ別の見分け方
ご自身の脱肛がどちらのタイプに近いか、目安として参考にしてみてください。
| 比較項目 | ① 持ち上げる力の低下タイプ(中気下陥) | ② 痔核(いぼ痔)に引っ張られるタイプ(瘀血) |
| 脱出してくるもの | 柔らかく薄い粘膜が全体的に垂れ下がってくる | いぼ状の弾力があるコリコリとした膨らみが出てくる |
| 主な発生のきっかけ | 出産経験、加齢、長年の慢性疲労や胃腸の弱り | 以前から「いぼ痔(内痔核)」の持病や出血があった |
| 症状が出やすいタイミング | 排便時だけでなく、夕方の立ち仕事や疲れた時 | 主に排便時に強くいきんだ瞬間に出てくる |
| 伴いやすい全身サイン | 強い疲れやすさ、胃もたれ、下腹部が下がる感覚 | 肛門の強い痛む感じ、出血、局所の赤く硬い腫れ |
| 漢方アプローチの方向性 | 中気を強烈に補い、内臓や粘膜を持ち上げる | 滞った血流(瘀血)を巡らせ、痔核自体を和らげる |
※実際の患者さまでは、出産経験があり(①)、かつ内痔核も存在する(②)というように、両方の要因が重なっているケースも少なくありません。その場合はお体の優先度を見極めながら、生薬を組み合わせてオーダーメイドで処方いたします。
5. 【改善実例】太陽堂での体質改善エピソード(服用終了まで)
①【出産後からの脱肛】50代 女性|4ヶ月でほぼ出なくなり、1年で体質ケアご卒業
【ご相談時の状態】 出産を経験されてから長年脱肛に悩まされており、排便のたびに指で押し込まないと戻らない状態でした。年齢とともに垂れ下がりがひどくなり、「できれば手術をせずに体質から見直したい」と太陽堂へご来店されました。
【太陽堂の提案】 お体の状態から、出産と加齢による典型的な「中気下陥(持ち上げる力の低下)」と見立て、衰えた中気を強く補い、下垂した粘膜を引き上げる煎じ薬をお渡ししました。
- 1ヶ月後: 排便後の肛門の重だるい不快感が和らぎ、疲れにくくなってきたと実感。
- 4ヶ月後: 排便時に出てくる頻度が明らかに減り、出たときも指で押さなくても自然と中に引っ込む日が増えてきました。
- 7ヶ月後: 排便時に粘膜が外へ飛び出すことが全くなくなり、日常を快適に過ごせるように。
- 1年後: 脱肛を起こさない安定した体質が定着したため、ご相談の上で無事に漢方ケアの服用終了(ご卒業)となりました。
②【内痔核(いぼ痔)+脱肛】40代 女性|1ヶ月で腫れと脱出が軽減し、1年でご卒業
【ご相談時の状態】 妊娠時に「内痔核」になり一時落ち着いていたものの、再発。便秘で強くいきんだことをきっかけにいぼ痔が大きくなり、排便のたびに大きないぼが外へ飛び出して痛むようになりご来店されました。
【太陽堂の提案】 大きくなった痔核に引っ張られて脱出する「瘀血(うっ血)タイプ」と見立て、肛門周囲の血流をスムーズにして滞りを散らす漢方薬を中心にお渡ししました。
- 1ヶ月後: 肛門の強い痛みと赤く固い腫れが引き、排便時の脱出の大きさが明らかに小さくなりました。
- 4ヶ月後: いぼが小さくなったことで便に引っ張られなくなり、排便時に飛び出してくることがなくなりました。
- 1年後: いぼ痔自体も穏やかになり、脱肛も完全に落ち着いた状態を維持できているため、無事に服用終了(ご卒業)を迎えられました。
※効果の感じ方や必要な期間には個人差があります。
6. ご自宅でできる脱肛の生活養生・食養生
日常の習慣を少し見直すことで、肛門への負担を減らし、引き上げる力を助けることができます。
- トイレでの「長居」と「強いいきみ」をやめる: 便座に座る時間は3分以内を徹底しましょう。出ないからといって長時間いきみ続けると、肛門クッションに過剰な圧力がかかり、脱肛を急激に悪化させます。足台(踏み台)を使って少し前かがみの姿勢をとると、直腸と肛門がまっすぐになり出やすくなります。
- お風呂で「湯船に浸かり」温める: 38〜40℃程度のぬるめのお湯にゆったり浸かることで、下半身の静脈の血流が促進され、肛門周囲のうっ血(瘀血)が和らぎます。
- 便秘と下痢のどちらも防ぐ食事: 硬い便は強いいきみの一因になり、逆に激しい下痢も肛門粘膜に強い摩擦刺激を与えて脱肛を引き起こします。不溶性・水溶性の食物繊維(根菜類、海藻、キノコ等)と十分な水分を摂り、するんと出る「バナナ状の便」を目指しましょう。
- 長時間の座りっぱなしを避け、適度に体を動かす: デスクワークなどで1時間以上同じ姿勢が続く場合は、立ち上がって軽めのストレッチをしましょう。下半身に血液が溜まるのを防ぐことができます。
よくあるご質問(FAQ)
病院で「手術しかない」と言われましたが、漢方薬で本当に出なくなりますか?
完全にゼロになることを一概にお約束することはできませんが、脱肛の頻度や大きさを大幅に軽減できるケースは多くあります。
長年かけて緩んでしまった組織を元通りにすることは簡単ではありませんが、漢方で持ち上げる力を補ったり、いぼ痔を小さくすることで、「指で押し込んでいたのが自然に戻るようになった」「毎日出ていたのがたまにしか出なくなった」というような変化を感じられ、手術を回避できた方はたくさんいらっしゃいます。
どのくらいの期間、漢方薬を続ければ効果を感じられますか?
お体の状態によりますが、まずは3ヶ月程度が一つの大きな目安となります。
長年かけて組織が低下・弛緩してきたものですので、体質を立て直すにはどうしても一定の時間が必要となります。早い方では1ヶ月前後で痛みや引き上がり感を実感されることもありますが、しっかりとした体質改善のためには3ヶ月〜1年程度じっくり取り組むケースが多くなります。
市販の注入軟膏や座薬と漢方薬は併用できますか?
はい、基本的には安心して併用いただけます。
市販の軟膏や座薬は「今ある肛門の痛みや炎症を局所的に和らげる対処療法」として役立ちます。そこに漢方薬で「持ち上げるエネルギー補給や全身の血流改善」という根本アプローチを行うことで、お互いの強みを活かしたケアが可能です。「押せば戻る」うちからの早期ケアをおすすめします。
病院を受診せずに、最初から漢方相談だけで進めても大丈夫ですか?
基本的にはご相談いただけますが、一度肛門科で状態を確認してもらうのが安心です。
脱肛だと思っていたものが、まれに「直腸脱(直腸全体が裏返って出てくる病気)」や「ポリープ」であったり、前述の「嵌頓(かんとん)」を起こしている可能性もあります。西洋医学的な診断がついていると、漢方の見立てや処方選定もより正確に行うことができます。
まとめ|「押せば戻る」うちが、体質から見直すチャンス
「恥ずかしくて病院に行けず、ずっと我慢して痛みに耐えている」
「手術を勧められたけれど、切る前にできる限りのことを試したい」
脱肛は部位が部位だけに、一人で抱え込んで悩んでしまう方が本当に多い不調です。しかし、粘膜を支える組織の緩みやいぼ痔のうっ血は、放っておいて自然に治ることは少なく、我慢を続けていると少しずつ病期(度数)が進行してしまう危険性があります。
ご自身の脱肛が「持ち上げる力が足りないタイプ」なのか、「いぼ痔に引っ張られるタイプ」なのか。
まずはその原因を正しく見極め、身体の内側から土台を立て直していくことが、遠回りに見えて一番の近道です。
「手術以外の選択肢を試してみたい」
「まずは電話やオンラインで落ち着いて相談したい」
という方は、一人で悩まずにどうぞお気軽に太陽堂へご相談ください。デリケートなお悩みだからこそ、あなたのプライバシーに配慮し、お気持ちに優しく寄り添いながら最適な漢方ケアをご提案いたします。
関係性の深い病気;ご相談も多数いただいております。
脱肛だけでなく、痔に関するさまざまなお悩みについても、太陽堂では数多くのご相談をいただいております。気になる症状がある方は、以下のページもあわせてご覧ください。
痔核(いぼ痔)肛門のいぼ状のふくらみ、出血や痛みを繰り返している方に。脱肛の原因になっている場合もあります。
切れ痔(裂肛)硬い便や便秘で肛門が切れて、排便のたびに痛みや出血がある方に。
痔ろう(肛門周囲膿瘍)肛門の周りの腫れや膿、繰り返す炎症にお悩みの方に。
太陽堂の特徴
”当薬局のHPをご覧いただき、ありがとうございます。
私たち太陽堂は「一人でも多くの方の笑顔を見る為に」という思いのもと開局しました。
漢方薬とお客様の出会いがお悩み、体質改善の一助になれれば幸いです。”
特徴その1.
当薬局では、お客様「ひとりひとりに合わせた漢方薬」をその場で調合いたします。
そのため初めてのご相談では、「約1時間~1時間半」ほど相談時間をいただいております。
(遠方のお客様や、お忙しいお客様へは配送の受付もしております。詳しくはお問合せください)
特徴その2.
お作りする漢方薬は、国内外から厳選した生薬の力を、余すことなくお客様に届けるため
「煎じ薬」をお勧めしております。
特徴その3.
当薬局は漢方専門の薬剤師が「得意とする専門分野」にわかれて日々研鑽しています。
お客様の健康を第一に考え、漢方の勉強会なども積極的に開催しております。
記事作成者 薬剤師 前原 信太郎

実績:伝統漢方研究会 2017年・2021年・2025年 学術発表
沖縄で開業医をしていた祖父と薬の話しをしていた事から薬剤師の道を目指すように。
調剤薬局の薬剤師として6年間勤務。
漢方の勉強をして、より患者さんの治療の選択肢の幅を広げたいという思いから「漢方の道」に。
調剤薬局も経験している為、西洋学の知識も勉強を積み今に至ります。
記事作成者 薬剤師 石川 満理奈

得意な疾患:胃腸疾患・耳鼻咽喉疾患・不妊症・婦人科・肝臓・腎臓
開業医だった父の影響で小さい頃から医療は身近に。
薬学部を卒業後、調剤薬局に勤務。
自分自身の胃腸の不調も漢方薬により改善。
よりご来局頂いた方の体質に沿った治療の選択をできるようになりたいという思いから「漢方の道」へ。















