
「毎年、寒くなり始めると決まって風邪をひいてしまう。しかも一度ひくと、咳や鼻水がなかなか治らずに何週間も長引く…」
「季節の変わり目、特に秋から冬への入り口で体調を崩すのがお約束になっていて、冬が来るのが本当に憂うつ…」
「周りの人はピンピンしているのに、同じ職場や家族の中で自分だけがいつも風邪をもらいやすい。もうそういう体質だから仕方ないと半ば諦めている…」
10月23日ごろの「霜降(そうこう)」。朝晩の冷え込みが一段と強まり、北国や山間部では初霜が降り始めるという、文字通りの節気(せっき:昔の暦で季節の移り変わりを表す目印)です。秋の最後の節気であり、これが終われば次はもう立冬。つまり霜降という時期は、「本格的な冬がやって来る前の、最後の準備期間」なのです。
実は、冬に風邪をひきやすい人と、ひきにくい人。その差は、風邪の流行シーズンが本格的に始まってから生まれるわけではありません。その前の準備期間である「秋のうちに、体を守る力(免疫の土台)をどれだけしっかりと蓄えられたか」で勝負が決まっているのです。
だからこそ、毎年冬に体調を崩して辛い思いをしている方にとって、この霜降からの2週間の「冬支度」の過ごし方が、その年の冬のコンディションを大きく左右することになります。
今回は、寒くなると風邪をひきやすくなるメカニズムと、漢方における「衛気(えき:体の表面を守るバリアの力)」という重要な考え方、そして冬本番を前に免疫力をしっかりと蓄えるための食事と生活の養生法を、太陽堂の薬剤師が詳しく解説いたします。
【太陽堂が教える、霜降の冬支度・養生まとめ】
まずは、当薬局が考える「風邪をひきやすい体質の冬支度」へのアプローチを簡潔にまとめました。
- 漢方の見立て(原因): 西洋医学では「気温と湿度の低下でウイルスが活発になる一方、体の冷えと乾燥によって免疫や粘膜のバリア機能が低下する季節の変化」とされる冬の風邪ですが、漢方では、体の表面を守る見えないバリアの力である「衛気(えき)」と、そのバリアの材料を作り出し全身に配る役割を持つ胃腸(脾)や肺の働きが、寒さへの備えがないまま消耗し、極端に低下している状態に注目して原因を探ります。
- アプローチ(対策): きのこ・発酵食品・根菜など「バリアの材料を作り、防御の力を育てる食材」を中心とした毎日の食事ケアや、湯船で体温を上げる習慣、十分な睡眠の確保(養生)と、お一人おひとりの体質に合わせたオーダーメイドの煎じ薬を通じて、本格的な寒さが来る前に「風邪をもらいにくく、ひいても長引かない力強い体の土台づくり」をサポートします。
- 今後のステップ(根本ケア): 「風邪をひいてから慌てて薬を飲む」という後手後手の対応を毎年繰り返すのではなく、根本的な原因(防御のエネルギーを作る力の不足や、胃腸の弱りなど)を見極めるため、まずはじっくりとご相談を重ね、「毎年冬に体調を崩さない」揺らぎにくい長期的な体質と向き合っていきます。
【薬剤師 林の視点】寒くなると風邪をひきやすくなるメカニズムと、西洋医学・漢方のアプローチ
こんにちは、薬剤師の林です。
「寒くなると風邪が流行る」というのは誰もが当たり前のように感じている事実ですが、その理由を体の仕組みから正しく理解すると、私たちが今何を優先して対策すべきかが、はっきりと見えてきます。
西洋医学の視点:気温が下がるとウイルスは元気に、防御システムは鈍くなる
冬に風邪やインフルエンザなどの感染症が爆発的に増える理由は、大きく2つの側面に分けられます。
1つは、ウイルス側の事情です。多くのウイルスは、高温多湿に弱く、低温で乾燥した環境を好みます。空気が冷たく乾燥すればするほど、ウイルスは空気中を長く漂い、感染する力を強く保ちやすくなるのです。
もう1つは、迎え撃つ私たち人間の体側の事情です。人間の体は、体温が下がると血流が悪化し、全身をパトロールしている免疫細胞(白血球など)の働きが著しく低下すると言われています。寒さで体が冷えるということは、ウイルスという外敵から身を守る防衛部隊の動きが鈍ってしまうということです。
さらに、空気の乾燥によって喉や鼻の粘膜が乾くと、ウイルスの侵入を最前線で物理的に防ぎ、繊毛運動で外へ押し出すバリア機能も落ちてしまいます。「冷え」と「乾燥」がそろう冬は、敵が強くなる一方で味方の防御力が落ちるという、二重に不利な過酷な季節なのです。
西洋医学的な視点では、手洗い・うがい・マスクの着用といった基本の感染対策で「敵を体に入れない」ことに加えて、十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動によって免疫の土台を正常に保つことが推奨されます。また、インフルエンザの予防接種など、医療機関で受けられる予防手段も上手に組み合わせて活用することが大切です。
漢方の視点:バリアの力「衛気」は、冬が本格化する前に蓄えておくもの
一方、漢方の視点では、風邪のひきやすさを体の表面を守る「衛気(えき)」というエネルギーの過不足から読み解きます。
漢方では、健康な人の体の表面には「衛気」と呼ばれる、目には見えないオーラのようなバリアの気が巡っており、これによってウイルスや冷たい風といった外からの邪気(外邪:がいじゃ)が体内に侵入するのを防いでいると考えます。
ここで非常に重要なのが、この衛気というバリアの材料が「どこで作られ、どうやって配られるのか」という点です。衛気は、消化吸収を担う「胃腸(脾:ひ)」で日々の食事から作り出され、呼吸を司る「肺」のポンプの働きによって全身の表面へとくまなく配られます。
つまり、「毎年冬になると必ず風邪をひく」「周りは元気なのに自分だけもらいやすい」という体質の正体は、多くの場合、バリアの材料を作る工場である「胃腸の働き」と、それを配る「肺の働き」が慢性的に弱っていることにあるのです。
だからこそ、防御の力を高めるための「冬支度」は、風邪の流行シーズンが本格的に始まってから慌てて行っても間に合いません。霜降の時期から胃腸の工場をしっかりと整え、良質な食事と睡眠でエネルギー(気)をたっぷりと蓄えておくことが、冬本番のバリアの「在庫量」を決定づけるのです。
漢方では、このような風邪をひきやすい体質に対し、胃腸を立て直してバリアの材料を作り出し、体の表面の防御をガッチリと固めるアプローチ(補気健脾:ほきけんぴ、益気固表:えっきこひょうなどの考え方)を用いて、「もらいにくく、万が一ひいても症状が軽く済み、こじらせずにスパッと治る」力強い体づくりを内側からサポートしていきます。
【薬剤師 前原の視点】免疫とバリアを蓄える、霜降の食事と生活養生
薬剤師の前原です。
本格的な冬に向けた冬支度の合言葉は、「工場(胃腸)を整え、在庫(体力・気)を蓄え、燃料(体温)を絶やさない」です。特別な健康食品に頼るよりも、毎日続けられる地味で確実な生活習慣こそが、一番強力なバリアを作ってくれます。
きのこ・発酵食品・根菜で、「防御の工場(腸)」を育てる
免疫細胞の約7割は腸に集まっていると言われます。漢方でいう「胃腸(脾)」を整えることは、現代医学の腸内環境改善にも通じる、最強の防御力アップの手段です。
- おすすめの食材: しいたけ・まいたけ・えのきなどのきのこ類、味噌・納豆・ヨーグルトなどの発酵食品、山芋、かぼちゃ、れんこん、ねぎ、しょうが など。
きのこ類に豊富に含まれる水溶性食物繊維と、味噌や納豆などの発酵食品は、腸内の善玉菌の最高のエサとなり、腸内環境を整えて防御の工場の生産力を底上げしてくれます。
そこでおすすめしたいのが、温かいお味噌汁に、たっぷりのきのこと根菜を入れた「具だくさん味噌汁」です。これを毎日一杯飲むだけで、胃腸が温まり、発酵食品と食物繊維が摂れるという、それだけで立派な冬支度になる最強の一品です。
また、漢方の視点では、ネバネバ成分を含む「山芋」は、エネルギー(気)を強力に補ってバリアの材料を作る代表的な養生食材です。すりおろしてご飯にかけたり、お味噌汁の具にしたりして、積極的に取り入れてみてください。
「毎日、湯船で体温を上げる」を基本の習慣にする
先ほどお話しした通り、体温と免疫力・防衛部隊の働きには非常に深い関係があります。外の気温が下がるこれからの季節、自分の体をしっかりと温め続けることは、そのまま防御力のケアに直結します。
忙しいからとシャワーだけで済ませるのではなく、38〜40度くらいの少しぬるめの湯船に、10〜15分ほどゆっくりと浸かることを毎日の必須の習慣にしてください。体の芯(深部)まで温まって、じんわりと軽く汗ばむ程度が理想の目安です。
入浴は体温を上げるだけでなく、自律神経をリラックスモード(副交感神経)に切り替え、そのあとの「深い質の高い眠り」も連れてきてくれます。寝る90分ほど前に入浴を済ませるのが、スムーズな眠りに入るためのゴールデンタイミングです。
「睡眠の借金」を作らない。防御の力は寝ている間に蓄えられる
「睡眠時間が足りない日が続くと、風邪をひきやすくなる」ということは、多くの方が経験的に知っているだけでなく、様々な研究でもはっきりと証明されています。なぜなら、疲労した細胞の修復や、免疫システムの立て直しとメンテナンスは、主に私たちが深く眠っている間にのみ行われているからです。
夜更かしをして睡眠時間を削ることは、せっかく蓄えようとしている冬支度の在庫(エネルギー)を、その場で取り崩して浪費しているのと同じ行為です。
霜降の節気を迎えたら、「いつもより30分早く布団に入る」ことを合言葉に、できれば7時間前後の睡眠をしっかりと守るように心がけてください。どうしても仕事などで睡眠が足りなかった日は、翌日のお昼休みに15〜20分程度の短い昼寝(パワーナップ)を取り入れて、睡眠の借金を少しでも早く返済する工夫をしましょう。
【比較表】霜降からの冬支度!OK・NG行動リスト
| カテゴリ | 〇 おすすめ(防御の力を育て、蓄える) | × 要注意(在庫を減らし、守りを崩す) |
| 食事の選び方 | きのこ・発酵食品・根菜の具だくさん味噌汁を毎日一杯 (腸の環境が整って防御の工場が活性化し、バリアの材料をしっかりと作り出せる) | ダイエットや忙しさで食事を抜く、冷たいものばかり摂る (材料そのものの不足と冷えによって、胃腸の工場の生産ラインが完全にストップする) |
| 体温の管理 | 毎日湯船に10〜15分浸かり、3つの首を守る服装にする (高い体温が保たれることで、免疫の防衛部隊が素早く動きやすい体内環境が整う) | 「まだ本格的な冬じゃないから」と薄着で、シャワーだけで済ませる (体の冷えとともに免疫の働きが著しく鈍り、ウイルスにやすやすと先手を取られる) |
| 休息と睡眠 | いつもより30分早く寝て、7時間前後の睡眠を確保する (防御の力は睡眠中にのみしっかりとメンテナンスされ、冬に向けた在庫が着実に増える) | 夜更かしで睡眠を削り、週末に昼過ぎまでまとめて寝だめする (在庫を日々取り崩す生活が続き、バリアが空っぽの無防備な状態で風邪の季節に突入する) |
【改善実例】「2ヶ月に1度の風邪」を繰り返していた方が、風邪知らずの体へ
【昭和20年生 女性】繰り返す風邪と咳が、体力の底上げで穏やかに
肺の疾患でご相談に来られた方です。風邪をひきやすくなり、症状が悪化しているため太陽堂にご相談に来られました。症状は咳と風邪のひきやすさで、薄い黄色の痰が出ており、2ヶ月に1度は必ず風邪をひいているとのことでした。
- サポート内容: 「菌を除去する漢方薬」「免疫を上げる漢方薬」「体力をつける漢方薬(風邪をひきにくくする漢方薬)」の3種類を組み合わせてご提案しました。
- 4ヶ月後: 風邪をひくこともなくなり、痰も出なくなったとのこと。順調に改善してきているとのことでした。
- 2年2ヶ月後: この2年、風邪を全くひかなくなり体力がついているとのこと。体調の良い状態が続いているため、服用終了となりました。
※効果の感じ方や必要な期間には個人差があります。
霜降の養生に関するよくある質問(FAQ)
風邪をひききってからではなく、「ひき始め」に漢方でできることはありますか?
大いにあります。「寒気がしてゾクッと来た、最初の数時間」こそ、漢方が最も得意とする出番です。
漢方治療には昔から「風邪はひき始めの対応で勝負が決まる」という重要な考え方があります。寒気がして首筋がゾクッとしたり、透明な鼻水が出たりする初期段階で、体を温めて汗をかかせ、侵入してきた邪気を外へ発散させる対応(葛根湯などが有名です)を取ると、症状をこじらせずにスパッと終わらせることができる場合が多いのです。
ご家庭でできる代表的な養生としては、しょうが湯や温かい葛湯を飲んで体を温め、首元にタオルを巻いてすぐに布団に入り、ぐっすり休むことです。症状やその方の体質によって「ひき始め」に合う漢方薬は変わってきますので、「毎年こじらせて辛いので、ひき始め用に自分に合ったものを備えておきたい」という方は、あらかじめご相談いただくのがおすすめです。
(※なお、高熱が数日続く、息苦しさや強いのどの痛み、黄色や緑色の痰を伴う長引く咳などがある場合は、速やかに医療機関を受診してください。)
インフルエンザなどの予防接種を受ければ、漢方や養生はしなくても大丈夫ですか?
予防接種と日々の養生は、守る役割が全く別のものです。どちらも大切なので、両方を上手に活用してください。
インフルエンザワクチンなどの予防接種は、あらかじめ想定される「特定の強力なウイルス」に対するピンポイントな防衛策として、非常に有効で大切なものです。
一方で、食事や睡眠などの日々の養生や漢方による体質ケアが育てるのは、どんな種類のウイルスや寒さの刺激に対しても働く、「自分自身の体が持つベースの防御力の土台(自然免疫)」です。予防接種で特定の敵に備えつつ、養生で全体の土台を底上げしておく。この二段構えこそが、冬を最も元気に、安全に越えるための確実な方法です。
「毎年冬になると必ず風邪をひいて長引く」という私の体質は、本当に変えられるものですか?
時間はかかりますが、変えていける体質です。そしてそれこそが、漢方の最も得意とする分野です。
「毎年もらいやすい」「一度ひくと一ヶ月は咳が残る」という体質の背景には、バリアの材料を作り出す胃腸の弱りや、エネルギーが枯渇しやすいといった、その方ごとの根本的な「土台の弱さ」が存在します。漢方は、表面的な症状を抑えるのではなく、この土台そのものを数ヶ月単位でじっくりと底上げしていくアプローチです。
今年の霜降からの冬支度と並行して、漢方での体質ケアを始めれば、「そういえば今年の冬は、例年よりずっと風邪をひきにくかった、ラクだった」という実感を、最初の目標にすることができます。毎年の辛さを「私の体質だから」と諦めてしまう前に、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ:冬の元気とバリアは、霜降からの2週間で仕込まれる
「毎年冬になると必ず風邪をひいて、治るまで辛い思いをする…」
あなたが風邪をひきやすいかどうかは、運が悪いわけでも、根性が足りないわけでもありません。答えはシンプルで、「冬という過酷な季節が来る前に、バリアの材料をどれだけ体の中に蓄えることができたか」で、勝負のほとんどが決まっているのです。
具だくさんのきのこ味噌汁で胃腸の工場を整え、毎日ぬるめの湯船で体温を上げ、30分の早寝でエネルギーの在庫を蓄える。霜降からのこの2週間、この3つの基本の養生を続けるだけで、冬の入り口に立つあなたの体は、去年とはまったく違うものになっているはずです。
そして、漢方の視点でその「バリアの力」を内側から根本的に補っておけば、「毎年恒例の冬の不調」から卒業し、元気に冬のイベントを楽しめる道筋が見えてきます。
「毎年、冬になると必ず体調を崩して寝込んでしまう」「一度風邪をひくと、一ヶ月は咳やだるさを引きずってしまう」という方は、ぜひ太陽堂までお気軽にご相談ください。お一人おひとりの体質と生活習慣に合わせた、無理のない、あなただけの「冬支度」をご提案いたします。
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記事作成者 薬剤師 林 泰太郎

実績:伝統漢方研究会 2015~2017年・2019年・2020年・2022年・2025年 学術発表
調剤薬局で3年間勤め、西洋の薬だけでは治療が難しい病気の壁に直面。
・「治療の難しい病気をなんとか治したい。」
・「ひとりでも多くの患者さんを笑顔にしたい。」
という想いから漢方の道へ。
漢方薬局で3年間修業をして、2015年 『漢方薬局 太陽堂』を立ち上げ。
開局10年を迎えた今も1ヶ月の平均来局数は900名を超え、お客様にご愛顧いただいている太陽堂の漢方薬剤師です。
記事作成者 薬剤師 前原 信太郎

実績:伝統漢方研究会 2017年・2021年・2025年 学術発表
沖縄で開業医をしていた祖父と薬の話しをしていた事から薬剤師の道を目指すように。
調剤薬局の薬剤師として6年間勤務。
漢方の勉強をして、より患者さんの治療の選択肢の幅を広げたいという思いから「漢方の道」に。
調剤薬局も経験している為、西洋学の知識も勉強を積み今に至ります。















