
「秋風が冷たくなり始めた頃から、朝、布団から出るのが急につらくなってきた…」
「秋の初めと同じペースで仕事や家事をしているはずなのに、夕方になるとどっと疲れて動けなくなってしまう…」
「毎年、冬の入り口あたりで必ず体調を崩してしまう。今年こそは元気に冬を越したい…」
11月7日ごろの「立冬(りっとう)」。暦の上では、この日からいよいよ冬が始まります。日はぐっと短くなり、朝晩の空気も冬の身を切るような気配に変わっていく、一年の中でも特に大きな季節の切り替わりの節気(せっき:昔の暦で季節の移り変わりを表す目印)です。
東洋医学では、冬は「閉蔵(へいぞう)」の季節とされています。これは、エネルギーを外にまき散らさず、体の内側にしっかりと蓄えておくべき時期という意味です。動物が冬眠に入り、植物が葉を落として根に栄養を集めるように、自然界はいっせいに静かな「省エネモード」へと切り替わります。
ところが、現代に生きる私たち人間だけは、春や夏と同じ活動的なペースのまま、年末に向けて仕事もプライベートの予定もぎっしりと詰め込みがちです。実は、この「冬なのに発散し続ける暮らし方」こそが、冬の長引く不調や、翌春にまで響く深い消耗の大きな原因だと漢方では考えます。
今回は、冬の主役となる臓器「腎(じん)」の奥深い考え方と、首・手首・足首の「三首(さんくび)」を温める冬支度、そして立冬から始めたい「蓄える暮らし方」を、太陽堂の薬剤師が詳しく解説いたします。
【太陽堂が教える、立冬からの冬支度・養生まとめ】
まずは、当薬局が考える「立冬からの過ごし方」へのアプローチを簡潔にまとめました。
- 漢方の見立て(原因): 西洋医学では「体温維持のための基礎代謝の増加と、日照減少に伴う自律神経のリズム変化」とされる冬の入り口の不調ですが、漢方では、生命力の貯金箱である「腎(じん)」が寒さによって最も消耗しやすい季節に、春夏と同じペースでエネルギーを発散し続けた結果、疲れが抜けない・朝がつらいといった「エネルギーの底突き(気虚・腎虚)」のサインが出やすくなっている状態に注目して原因を探ります。
- アプローチ(対策): 黒豆や黒ごま、くるみなど、腎を養いエネルギーを蓄える「黒い食材」を取り入れた毎日の食事ケアや、首・手首・足首の「三首」を温めて熱を逃がさない保温の工夫(養生)、そしてお一人おひとりの体質に合わせたオーダーメイドの煎じ薬を通じて、厳しい寒さに負けない「自ら熱を作り、蓄えられる体の土台づくり」を内側からサポートします。
- 今後のステップ(根本ケア): コーヒーやエナジードリンクで一時的に眠気とだるさをごまかすだけでなく、根本的な原因(生命力のストック自体の減少や、慢性的な冷え)を見極めるため、まずはじっくりとご相談を重ね、「蓄える」という冬本来の長期的な体質改善と向き合っていきます。
【薬剤師 林の視点】冬に消耗する人・元気に越せる人の差はどこにある?
こんにちは、薬剤師の林です。
「なぜ冬になると、いつも以上に疲れを感じるのか」。これには、体が冬の環境に適応しようとする際の「燃費の変化」という、明確な理由があります。
西洋医学の視点:冬の体は、じっとしていても「燃費」が悪くなる
気温が下がると、人間の体は深部体温を37度前後に保つために、自ら熱を作り出そうと基礎代謝を上げます。これはつまり、じっとしていてもエネルギーを多く消費するようになるということであり、冬の体は文字通り「燃費が悪くなる」季節なのです。
さらに、日照時間が急激に短くなることで、体内時計のリズムを司るセロトニンやメラトニンの分泌量が変化し、睡眠の質や精神の安定が揺らぎやすくなります。
「体温を保つためにエネルギーの支出は増えているのに、回復するための休息(良質な睡眠)が追いつかない」——これが、冬の入り口で「なんだか疲れが抜けない」「朝起き上がれない」と感じ始める最も大きな理由です。
この「燃費が悪く、回復しにくい時期」に、年末進行の忙しさや忘年会などのイベントが重なると、支出ばかりが膨れ上がり、回復が全く追いつかないまま、最も厳しい真冬へと突入することになってしまうのです。
漢方の視点:冬の主役は、生命力の貯金箱「腎(じん)」
一方、東洋医学では、季節ごとに自然界のエネルギーの変化に合わせて「最もよく働き、かつ最もダメージを受けやすい主役となる臓器」が決まっていると考えます。春は肝、夏は心、秋は肺、そして冬の主役は「腎(じん)」です。
漢方でいう「腎」は、西洋医学の腎臓(尿を作る臓器)としての働きだけでなく、成長・発育・生殖・老化を司る、「生命力の貯金箱」のような非常に重要な存在です。私たちが生きて活動するための根本的なエネルギー(精:せい)は、すべてこの腎に蓄えられています。この貯金は、過労や睡眠不足など無理を重ねることで日々切り崩され、年齢とともに少しずつ確実に減っていきます。
そして冬は、厳しい寒さに対抗し体を内側から温め続けるために、この腎の貯金の出入りが一年で最も激しくなる季節です。だからこそ、東洋医学の古典である『黄帝内経(こうていだいけい)』には、「冬は閉蔵(へいぞう)の季節である。陽気を潜伏させ、エネルギーを外に漏らさないように静かに蓄えて過ごしなさい」と記されているのです。
冬の間にエネルギーをしっかりと蓄えられた人は、次の春をイキイキと元気に迎えることができます。逆に、冬の間に無理をして貯金を使い果たしてしまった人は、春先に重い不調(激しいだるさやアレルギーの悪化など)としてそのツケを払うことになります。これが、漢方の「冬の養生」の土台となる考え方です。
「朝起きられない」「足腰がいつも冷たくて重だるい」「夜中にトイレに起きるようになった」といったサインは、決して気のせいではなく、あなたの腎が「もう生命力の貯金が底をつきそうです!」と切実に教えてくれている合図かもしれません。
漢方では、このようなサインに対し、腎のエネルギーをしっかりと補って貯金を増やし、体を内側から温めるアプローチ(補腎温陽:ほじんおんようなどの考え方)を用いて、厳しい冬の寒さにも、年末の忙しさにも耐えうる「揺るぎない体の土台づくり」をサポートしていきます。
【薬剤師 椙田の視点】立冬から始める「蓄える」食事と生活養生
薬剤師の椙田です。
立冬を迎えたら、生活のギアを「発散」から「蓄積」へと明確に切り替える必要があります。特別なことではなく、毎日の服装と食事、そしてスケジュールの立て方を少し見直すだけで、体は確実に「冬モード」へと整っていきます。
「三首(さんくび)」を温めて、作った熱を絶対に逃がさない
私たちの体には、首・手首・足首という「三首(さんくび)」と呼ばれる場所があります。ここは、皮膚のすぐ下を太い動脈が通っているため、ここが冷たい外気にさらされると、せっかく体が作った温かい血液がたちまち冷やされ、そのまま全身を巡って体を芯から冷やしてしまいます。逆に言えば、この三首を物理的に守るだけで、全身の保温効率は劇的に上がるということです。
- 首: マフラーやネックウォーマー、ストールを立冬から本格的に解禁しましょう。首の付け根(風門のツボがある場所)を冷気から守るだけで、体感温度は数度上がったように感じます。
- 手首: 袖の長いインナーや、手首まですっぽり覆うカーディガン、アームウォーマーを活用してください。また、洗い物をした後は、手首まで水気をしっかりと拭き取り、気化熱で冷えるのを防ぐことが大切です。
- 足首: レッグウォーマーや、足首がすっぽり隠れる長めの靴下を履いてください。素足にサンダル、足首が見える丈のパンツやスニーカーは、立冬からは潔く卒業です。
腎を養う「黒い食材」を、毎日の食卓に忍ばせる
薬膳の世界では、食材の「色」が五臓の働きと深く結びついていると考えます。秋に肺を潤す「白い食材」をご紹介しましたが、冬の主役である腎を養い、エネルギーの貯金を助けてくれるのは「黒い色の食材」です。立冬からは、毎日の食卓に「黒」を意識して少しずつ足してみてください。
- おすすめの食材: 黒豆、黒ごま、黒きくらげ、海藻(ひじき・わかめ・昆布)、くるみ、山芋、しいたけ、栗 など。
黒豆や黒ごまは、ご飯に混ぜたり、ほうれん草の和え物にふりかけたりと、毎日手軽に摂りやすい優等生です。ひじきやわかめなどの海藻類は、お味噌汁や煮物に。腎を補うミネラルの貴重な補給源となります。
また、漢方で「精がつく(生命力を補う)」とされてきた代表食材が、くるみと山芋です。とろろご飯にしたり、炒め物に加えたりしていただきましょう。
難しく薬膳を考える必要はありません。「いつもの白いご飯を黒豆ごはんに変える」「いつものお味噌汁にわかめを足す」といったように、いつもの食事に一品だけ「黒」を足すところから始めるのが、無理なく続けるコツです。
予定を「2割減らす」勇気を持つ
冬の養生において、実は一番大切なのに、一番実行されないのがこれです。年末に向けてイベントや仕事の予定が増える時期だからこそ、「本当に今年中にやるべきことなのか?」「自分が無理をしてまで行くべき集まりなのか?」と問い直し、意識して予定を2割手放す勇気を持ってください。
年末の付き合いで、単発の夜更かしをしてしまうのはある程度仕方ないとしても、「連日の夜更かし」や「予定の詰め込みすぎ」は、腎の生命力の貯金をダイレクトに切り崩し、春先の不調を決定づけてしまいます。
冬の夜長は、予定を詰め込んで活動するためではなく、エネルギーを内側に「蓄えるため」に長く与えられた時間です。睡眠時間をいつもより30分長く確保し、ゆっくりと湯船に浸かる。その「休む時間」を作ること自体が、立冬からの最も立派な養生となります。
【比較表】立冬からの冬支度!OK・NG行動リスト
| カテゴリ | 〇 おすすめ(エネルギーを蓄え、守る) | × 要注意(エネルギーを漏らし、消耗する) |
| 服装の工夫 | マフラー・レッグウォーマーで「三首」を徹底的に守る (太い血管を外気からガードし、体が作った熱を逃がさず全身を効率よく保温する) | 「まだ我慢できるから」と首元の開いた服や素足・薄着で過ごす (三首から冷たい血液が全身を巡り、基礎代謝で頑張って作った熱がすべて無駄になる) |
| 食事の選び方 | 黒豆・黒ごま・海藻・くるみ・山芋を毎日一品足す (冬の主役である「腎」を養う材料を取り入れ、生命力の貯金を内側から増やす) | 夏と同じように、氷入りの冷たい飲み物や生野菜サラダをそのまま続ける (冷えで胃腸の機能が落ち、エネルギーを作るどころかマイナスの消耗が続く) |
| 運動と活動 | ウォーキングやストレッチなど、じんわり温まる程度の運動 (血の巡りを落とさず、熱を作る筋肉を優しく維持する) | サウナや激しいスポーツで、大量の汗をダラダラとかき続ける (漢方では、冬の大量の発汗は大切な「陽気」まで一緒に外へ漏れ出ると考える) |
| スケジュールの立て方 | 予定を意識して2割減らし、睡眠時間を毎日30分多く確保する (冬の本来の姿である「閉蔵(蓄える)」を実践し、春に向けた体力の土台を作る) | 年末進行の焦りから予定をぎっしり詰め込み、連日夜更かしをする (腎の貯金を極限まで切り崩し、真冬に寝込んだり春に激しい不調が出たりする原因になる) |
立冬の養生に関するよくある質問(FAQ)
「三首を温める」だけで、本当に体は変わるのでしょうか?
はい、体感温度や疲れにくさが驚くほど変わる方は非常に多いです。
三首(首・手首・足首)は、太い血管が体の表面近くを通る「熱の出入り口」です。ここが外気に触れていると、いくら胴体をダウンジャケットで分厚く覆っても、冷やされた血液が全身を回ってしまいます。逆に三首を守れば、薄着でも保温効率が格段に上がります。特に足首は、熱を送り出す心臓から一番遠く、床からの冷たい空気の影響を最も受けやすい場所です。まずは、マフラー(ネックウォーマー)とレッグウォーマーの2つから、ぜひ騙されたと思って始めてみてください。
冬はエネルギーを「蓄える」季節とのことですが、運動は控えた方がいいのでしょうか?
軽い運動はむしろおすすめです。控えていただきたいのは「大量に汗をかくようなハードな運動」です。
東洋医学では、汗は単なる水分ではなく、体を温める大切なエネルギー(陽気)も一緒に含まれていると考えます。そのため、冬にサウナで無理に汗を絞り出したり、激しい筋トレやランニングでダラダラと汗をかき続けたりすると、せっかく蓄えようとしている陽気まで外へ漏れ出てしまい、結果として体を芯から冷やし、消耗を早めてしまいます。
冬の運動は、「体がじんわりとポカポカ温まり、軽くうっすら汗ばむ程度」のウォーキングやストレッチ、ヨガなどで血の巡りを保つのが、最もちょうど良い塩梅です。日中の太陽が出ている暖かい時間帯に行うと、さらに安心で効果的です。
「腎を守る、生命力の貯金」というのは、年配の人向けの話ではないのですか?
いいえ、毎日忙しく働いている20代〜40代の働き盛りの方にこそ、最も知っていただきたい大切な考え方です。
腎の生命力の貯金(精)は、加齢によって自然に減っていくだけでなく、日々の睡眠不足、過労、強いストレス、無理な食事制限(ダイエット)などによっても、容赦なくものすごいスピードで切り崩されていきます。
「最近、朝起きるのが本当に辛い」「足腰がいつも重だるくて冷たい」「若い頃よりトイレが近くなった」といったサインがある方は、年齢に関係なく、腎の貯金が激しく目減りし、疲弊している可能性があります。冬は、この減ってしまった貯金を立て直すための絶好のチャンスです。年齢を理由に後回しにせず、今のうちから腎を労わるケアを始めてください。
まとめ:冬の元気は「気合いで頑張ること」ではなく「静かに蓄えること」から
「毎日どっと疲れて、冬の入り口ですでに息切れしそう…」
立冬は、体と生活のギアを「活動して発散するモード」から「静かに蓄えるモード」へと切り替えるための号砲です。この時期の疲労感は、あなたが怠けているからではなく、「そろそろ休んで、エネルギーを貯金する時期ですよ」という、体と季節からの明確なサインなのです。
三首を温めて熱を逃がさない。黒い食材を毎日一品だけ食卓に足す。予定を思い切って2割減らし、いつもより30分長く眠る。
どれも一つ一つは小さなことですが、この「蓄える」行動の積み重ねが、あなたの「生命力の貯金箱(腎)」をしっかりと守り、厳しい冬を元気に越して、次の春を気持ちよく軽やかに迎えるための強固な土台になります。
「毎年、冬の入り口になると必ず調子を崩して寝込んでしまう」「朝の起き上がれなさや、疲れの抜けなさが年々ひどくなっている気がする」という方は、自力での回復が難しい、体質からの根本的な立て直しどきかもしれません。
ぜひ太陽堂までお気軽にご相談ください。お一人おひとりの体質と今のエネルギー残量に合わせた、あなただけの「冬支度」の漢方プランを、心を込めてご提案いたします。
関連ページ
太陽堂では、季節のお悩みだけでなく、心と体の様々なお悩みに対する漢方サポートを行っております。気になる症状がございましたら、以下のページもぜひご覧ください。
太陽堂の特徴
”当薬局のHPをご覧いただき、ありがとうございます。
私たち太陽堂は「一人でも多くの方の笑顔を見る為に」という思いのもと開局しました。
漢方薬とお客様の出会いがお悩み、体質改善の一助になれれば幸いです。”
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(遠方のお客様や、お忙しいお客様へは配送の受付もしております。詳しくはお問合せください)
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記事作成者 薬剤師 林 泰太郎

実績:伝統漢方研究会 2015~2017年・2019年・2020年・2022年・2025年 学術発表
調剤薬局で3年間勤め、西洋の薬だけでは治療が難しい病気の壁に直面。
・「治療の難しい病気をなんとか治したい。」
・「ひとりでも多くの患者さんを笑顔にしたい。」
という想いから漢方の道へ。
漢方薬局で3年間修業をして、2015年 『漢方薬局 太陽堂』を立ち上げ。
開局10年を迎えた今も1ヶ月の平均来局数は900名を超え、お客様にご愛顧いただいている太陽堂の漢方薬剤師です。
記事作成者 薬剤師 椙田 彩純

担当疾患;循環器、身体の痛み
臨床検査技師の両親の影響で、幼い頃から医療に関心を持つ。
大学卒業後、病院薬剤師として勤務。
対症療法が中心の現場で、繰り返す入退院や長期投薬を目の当たりにし、「もっと力になれる方法はないか」と模索する中で漢方と出会う。
現在は漢方の持つ幅広さと可能性に魅了され、一人ひとりの体質に寄り添った根本改善を追求している。















