
「冬の朝、目覚まし時計が鳴っても体が鉛のように重く、いくら寝ても寝足りない。休日は昼過ぎまで泥のように眠ってしまう…」
「お腹が空いているわけではないのに、チョコレートやパン、ご飯といった甘いものや炭水化物が無性に食べたくなって、一度口にすると止まらない…」
「自己嫌悪に陥るほど食べて眠る冬を過ごすのに、春になると嘘のように体が軽く、元気になる。だから周りにはこの辛さを分かってもらえない…」
木枯らしが吹き、日差しが弱まる冬の季節。毎年この時期になると、まるで別人のように体が動かなくなり、食欲のコントロールがきかなくなるという方はいらっしゃいませんか。
「私はなんて意志が弱いんだろう」「怠けているだけだ」と、ご自身を激しく責める必要はありません。もしこの状態が「冬にだけ」現れるのであれば、それは怠けでも食いしん坊でもなく、「冬季うつ(季節性感情障害・ウインターブルー)」と呼ばれる、季節の移り変わりと連動した心身の自然な(しかし辛い)変化のサインかもしれないのです。
一般的な気分の落ち込み(うつ状態)では「眠れない・食べられない」という症状が出やすいのに対し、冬季うつには真逆の非常に分かりやすい特徴があります。それが、「過眠(どれだけ眠っても眠い)」と「過食(特に甘いもの・炭水化物への強烈な欲求)」です。体が冬眠に入る準備をするように、「眠りすぎる・食べすぎる」方向へと傾いてしまうのです。
今回は、この「冬だけの過眠・過食」が体の中でどのようにして起きているのかというメカニズム、漢方における「陽気(エネルギー)」と「胃腸の疲れ」の関係、そして重たい冬の底を少しでも浅くするための食事と光の養生法を、太陽堂の薬剤師が詳しく解説いたします。
【太陽堂が教える、冬の過眠・過食の養生まとめ】
まずは、当薬局が考える「冬だけの過眠・過食」へのアプローチを簡潔にまとめました。
- 漢方の見立て(原因): 西洋医学では「日照時間の減少により脳の季節時計が狂い、セロトニン(心の安定物質)が減って省エネモードに入った状態」とされる冬の過眠・過食ですが、漢方では、体を温め動かすエネルギーである「陽気(ようき)」が冬の寒さと日照不足で極端に減少し、さらに甘いものの食べ過ぎで消化を担う「脾(ひ:胃腸)」が弱り、体内に余分な重たい湿気(痰湿:たんしつ)が溜まり込んでいる状態に注目して原因を探ります。
- アプローチ(対策): 朝の光を意識して浴びる習慣や、干し芋などの自然な甘みへの置き換え、温かい食事で胃腸を労わる工夫(養生)と、お一人おひとりの体質に合わせたオーダーメイドの煎じ薬を通じて、深い冬の沈み込みに負けない「エネルギーが巡り、溜め込まない体の土台づくり」をサポートします。
- 今後のステップ(根本ケア): (※日常生活が成り立たないほど辛い、消えてしまいたい気持ちになる場合は、我慢せずに心療内科・精神科の受診を最優先してください。)その上で、「毎年冬になると必ず繰り返す」という根本的な体質(陽気の不足や胃腸の弱り)を見極め、春を待つだけでなく、冬の寒さの中にあっても穏やかに過ごせる長期的なバランスと向き合っていきます。
【薬剤師 林の視点】なぜ冬だけ「眠すぎて、食べすぎる」状態になるのか
こんにちは、薬剤師の林です。
「なぜ冬の時期にだけ、こんなにも体が重く、食欲のコントロールがきかなくなるのか」。これはあなたの性格の問題ではなく、地球の季節変化に対する「脳と体のメカニズム」に明確な理由があります。
西洋医学の視点:脳の季節時計が狂い、体が「冬眠モード」に入りすぎる
秋から冬にかけて日照時間が極端に短くなると、網膜から脳に入る光の量が激減します。すると、脳の中で心の安定を保つ神経伝達物質である「セロトニン」の分泌が減少し、同時に、睡眠を促すホルモンである「メラトニン」の分泌リズムが大きく狂ってしまいます。
本来であれば、朝の光を浴びることでメラトニンの分泌が止まり「日中の活動モード」のスイッチが入るのですが、冬の光不足によってこのスイッチがうまく切り替わらず、昼間になっても眠りを促す仕組みがダラダラと働き続けてしまいます。これが、「いくら寝ても眠い」「朝起きられない」という過眠の正体です。
さらに、セロトニンが減少すると、脳はそれを手っ取り早く補おうとして緊急指令を出します。実は、糖質(甘いものや炭水化物)を摂ると一時的にセロトニンが増える性質があるため、脳は「甘いものを食べろ、ご飯やパンをたくさん食べろ」という強烈な欲求を生み出します。
これは、野生動物が厳しい冬を乗り切るために「たくさん食べて脂肪を蓄え、たくさん眠る」という「冬眠」のメカニズムに近いことが、人間の体でも過剰に起きてしまっているイメージです。緯度が高く日照時間が短い北国ほど、この「冬季うつ」の傾向が多いことも知られています。
西洋医学的な視点では、この状態を改善するための最大の柱は「朝の光」です。高照度光療法と呼ばれる治療法があるほど、明るい光を網膜に届けて脳の時計をリセットすることが重視されます。
漢方の視点:「陽気」の極端な不足に、「胃腸(脾)の疲れ」が重なった悪循環
一方、漢方の視点では、この「冬の重だるさ・眠さ・過食」を、体全体を動かす根源的なエネルギーの不足と、それに伴う内臓の働きの低下という2つの側面から捉えます。
漢方では、体を温め、活動的に動かし、気分を上向きにするエネルギーのことを「陽気(ようき)」と呼びます。自然界は冬になると陰(暗さ・静けさ)が強まり、陽気が最も少なくなります。人間の体も自然の一部ですので、冬は誰でも陽気が減るのですが、もともと体力が少ない方や冷え性の方など「陽気の貯金が少ない体質」の方は、この自然界の変化に強く引きずり込まれ、陽気が極端に不足して体が持ち上がらなくなってしまいます。
さらに厄介なのが、「甘いものの食べ過ぎ」による二次的なダメージです。
漢方では、消化吸収を担う胃腸のことを「脾(ひ)」と呼びますが、この「脾は甘いものを好むが、過剰な甘さは脾を弱らせる」と考えます。脳の欲求に任せて甘いお菓子や炭水化物を大量に食べ続けると、脾が処理しきれずに疲れ果ててしまいます。
脾が弱ると、食べ物をエネルギーに変えることができず、代わりに体の中に「痰湿(たんしつ)」と呼ばれる、重たくてドロドロとした余分な水分や老廃物が溜め込まれていきます。この痰湿が頭や体を覆うことで、さらに頭がぼんやりし、体が鉛のように重くなり、眠気が増すという悪循環に陥るのです。つまり、「食べれば食べるほど、かえって体が重く眠くなる」のです。
漢方では、このような深く沈み込んだ状態に対し、不足した「陽気」を温め補って体をふわりと持ち上げるアプローチ(温陽補気:おんようほき)と、疲れ切った脾の働きを助けて体内の重たい「痰湿」をスッキリとさばくアプローチ(健脾化湿:けんぴかしつ)を、その方の体質に合わせて組み合わせていきます。「毎年冬がやってくるのがこわい」という体質そのものを、内側から少しずつ浅くしていく土台づくりをサポートします。
【薬剤師 椙田の視点】「冬の底」を浅くする、光と食事の養生
薬剤師の椙田です。
冬の過眠や過食は、あなたの意志が弱いから起こるものではありません。ですから、「気合いで起きよう」「絶対に甘いものを食べないように我慢しよう」と自分を追い詰めるのは逆効果です。
冬季うつ対策の生活養生の合言葉は、「朝は光・昼は動く・甘いものは賢く置き換える」です。
朝:起きたらまずカーテンを開け、光を「浴びに行く」
ズレてしまった脳の季節時計をリセットし、省エネモード(冬眠モード)から日中モードへとスイッチを切り替えるためには、「朝の光」が絶対条件です。
起床後1時間以内に、意識して明るい光を目に入れてください。ただし、冬の室内の照明の明るさは、屋外の分厚い曇り空の明るさにも遠く及びません。部屋の中でじっとしているのではなく、光を「浴びに行く」ことが重要です。
起きたらすぐにカーテンを開け、窓際1メートル以内で朝食をとるようにする。あるいは、朝のゴミ出しや15分間の軽い朝散歩を日課にする。通勤・通学されている方は、一駅手前で降りて朝の光の中を歩くだけでも、素晴らしいリセット習慣になります。
食事:欲求と戦わず、「たんぱく質と温かさ」で置き換える
「甘いものが食べたい、炭水化物が食べたい」という強烈な脳の欲求と真っ向から戦うと、必ず反動が来ます。欲求をゼロにするのではなく、食べる「順番」と「質」を変えてあげましょう。
- 甘いものの前に、温かい汁物やたんぱく質をお腹に入れる: 空腹のまま、いきなり甘いパンやチョコレートに手を伸ばすと、血糖値が急激に乱高下(血糖値スパイク)し、その反動でさらに強い眠気と、「もっと甘いものが欲しい」という暴走を招きます。先にお腹を温かいスープやゆで卵などで満たしてから、という順番が鉄則です。
- おやつは「自然の甘み」に置き換える: 白砂糖がたっぷりの洋菓子ではなく、干し芋、焼き芋、ナツメ、栗、無塩ナッツなどに乗り換えましょう。これらは血糖値の波が緩やかで、漢方でも胃腸(脾)を養いエネルギー(気)を補ってくれる優秀な食材です。
- 朝食で「たんぱく質」をしっかりとる: セロトニン(心の安定物質)の材料となるのは、食事から摂るたんぱく質(アミノ酸)です。卵、豆腐、焼き魚などのたんぱく質を朝食でしっかりとることで、日中の心の安定と夜の良質な眠りを支える材料が作られます。
昼:15分の「日中の運動」が夜の眠りの質を変え、過眠を防ぐ
「眠くてだるくてたまらない」という時ほど、じっとベッドにこもっているよりも、実は少し体を動かした方が、かえって体が楽になります。
昼休みなどに外に出て、15分ほどの散歩や軽いストレッチを行ってみてください。日中に体を動かして体温を上げ、「活動のメリハリ」を作っておくことで、夜になった時に自然と体温が下がり、眠りが深くなります。
過眠で悩んでいる方こそ、夜の睡眠の「質」が低下していることが多いため、日中の軽い運動が「いくら寝ても寝足りない」という状態を和らげる大きなカギとなります。ハードな運動は全く不要です。「お昼に15分、外の空気を吸いながら歩く」だけで十分です。
【比較表】冬の過眠・過食の底を浅くする!OK・NG行動リスト
| カテゴリ | 〇 おすすめ(底を浅くし、リズムを整える) | × 要注意(底を深くし、悪循環を招く) |
| 朝の過ごし方 | 起床1時間以内に、窓際や屋外で光を「浴びに行く」 (脳の季節時計が力強くリセットされ、昼の活動スイッチが自然に入る) | 暗い部屋のまま、ギリギリまで何度も二度寝を重ねる (省エネモードが解除されず、一日中ぼんやりとした眠さを引きずる) |
| 甘いものとの付き合い | 先に温かい汁物・たんぱく質を摂り、おやつは自然の甘みに (血糖値の波を緩やかに保ち、脳の欲求の暴走と胃腸へのダメージを防ぐ) | 空腹のまま、菓子パンや甘いお菓子だけで食事を済ませる (血糖値の乱高下で、食後の強烈な眠さとさらなる甘味への欲求が押し寄せる) |
| 休日の過ごし方 | 起きる時間は平日と「2時間差以内」にし、昼に外へ出る (体内時計のリズムの崩れを最小限に抑え、月曜日の激しい落ち込みを防ぐ) | 平日寝足りない分、昼過ぎまで「寝だめ」して一日中家にこもる (激しい時差ボケ状態になり、週明けの眠さとだるさが倍増してしまう) |
| 心の持ち方・考え方 | 「季節の光の変化に、体が正常に反応しているだけだ」と理解する (自分を責めるストレスが減るだけで、不思議と心と体はかなり軽くなる) | 「自分が怠けているだけだ」と激しく自分を責め、根性で乗り切ろうとする (自責による強いストレスが自律神経をさらに乱し、症状を深く長引かせる) |
冬季うつ(冬の不調)に関するよくある質問(FAQ)
ただの「冬の疲れ」と「冬季うつ」は、どのように見分ければいいですか?
見分けるポイントは、「季節性(タイミング)」と「症状が出る方向」の2つです。
まず、毎年必ず「冬の時期(10月〜11月頃から)にだけ不調が現れて、春(3月頃)になると自然にウソのように軽くなる」という季節との明確な連動(季節性)があるかどうかです。
次に、一般的な疲れや気分の落ち込みでは食欲がなくなり眠れなくなることが多いのに対し、冬季うつでは「眠っても眠りすぎる(過眠)」「甘いものや炭水化物を異常に食べすぎる(過食)」という方向へ症状が出ます。
単なる一時的な疲れなら、数日ゆっくり休めば回復します。しかし、2〜3年続けて「毎年冬だけ、自分が別人のようになっておかしい」と感じているのであれば、それは冬季うつのサインと考え、対策を始める価値が十分にあります。
病院(心療内科や精神科)に行くべきか迷います。受診の目安はありますか?
「仕事や学校に行けない日がある」「大切なことを楽しめない状態が2週間以上毎日続く」「消えてしまいたい気持ちがよぎる」——これらに一つでも当てはまる場合は、我慢せず早急に受診してください。
季節の養生や食事の工夫は大切ですが、日常生活が破綻してしまうほど辛い場合は、養生の範囲を超えており、専門医による西洋医学的な治療(光療法やお薬によるサポートなど)が確実に力になる段階です。「ただの季節のせいだから」と一人で抱え込まず、必ず医療機関を頼ってください。漢方薬は、病院の治療(抗うつ薬など)との併用も十分に可能ですので、お薬手帳をお持ちのうえ、体質改善のサポートとしてご相談いただければと思います。
秋の初め頃からすでに気分が沈み始めるのですが、これも同じものですか?
はい、深く繋がっている場合が非常に多いです。
日が短くなり始める秋分を過ぎたあたりから気分の変化や寂しさが始まり、冬本番に向かって過眠・過食として症状が本格化していく、という流れは、冬季うつの方にとてもよく見られるパターンです。
秋の段階で「気分が沈むな」と感じた時から、朝の光を浴びる習慣や食事の対策を始めておくことで、冬本番の「底の深さ」をかなり浅く食い止めることができます。秋の気分の落ち込みと漢方の考え方については、下の関連ページでも詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
まとめ:「冬だけの自分」を責めずに、底を浅くしていく土台づくりを
「冬になると一日中眠くてたまらないし、甘いものがどうしてもやめられない…」
それはあなたが怠けているからでも、意志が弱いからでもありません。日照時間の減少という地球の季節の変化に対して、あなたの体が「冬を生き抜こう」と懸命に、そして正直に反応している自然な姿なのです。まずは、そんなご自身を責めるのをやめてみましょう。
朝の光を意識して浴びに行く。甘いものは温かいスープや自然な甘みに置き換える。お昼に15分だけ歩く。まずはこの日々の養生からスタートしてみてください。
そして、「毎年冬が重くて辛い」という体質そのものは、漢方の視点で内側から「陽気」をしっかりと補い、胃腸(脾)を助けて余分なものをさばくことで、沈み込む冬の底を少しずつ、確実に浅くしていくことができます。
「毎年、冬の自分が別人のようで情けなくなってしまう」「春が来るまでただ耐え忍ぶだけの冬の過ごし方を、そろそろ根本から変えたい」という方は、ぜひ太陽堂までお気軽にご相談ください。あなたの今年の冬の過ごし方に合わせた、無理のない立て直しプランをご提案いたします。
関連ページ
太陽堂では、季節のお悩みだけでなく、心と体の様々なお悩みに対する漢方サポートを行っております。気になる症状がございましたら、以下のページもぜひご覧ください。
太陽堂の特徴
”当薬局のHPをご覧いただき、ありがとうございます。
私たち太陽堂は「一人でも多くの方の笑顔を見る為に」という思いのもと開局しました。
漢方薬とお客様の出会いがお悩み、体質改善の一助になれれば幸いです。”
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そのため初めてのご相談では、「約1時間~1時間半」ほど相談時間をいただいております。
(遠方のお客様や、お忙しいお客様へは配送の受付もしております。詳しくはお問合せください)
特徴その2.
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特徴その3.
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お客様の健康を第一に考え、漢方の勉強会なども積極的に開催しております。
記事作成者 薬剤師 林 泰太郎

実績:伝統漢方研究会 2015~2017年・2019年・2020年・2022年・2025年 学術発表
調剤薬局で3年間勤め、西洋の薬だけでは治療が難しい病気の壁に直面。
・「治療の難しい病気をなんとか治したい。」
・「ひとりでも多くの患者さんを笑顔にしたい。」
という想いから漢方の道へ。
漢方薬局で3年間修業をして、2015年 『漢方薬局 太陽堂』を立ち上げ。
開局10年を迎えた今も1ヶ月の平均来局数は900名を超え、お客様にご愛顧いただいている太陽堂の漢方薬剤師です。
記事作成者 薬剤師 椙田 彩純

担当疾患;循環器、身体の痛み
臨床検査技師の両親の影響で、幼い頃から医療に関心を持つ。
大学卒業後、病院薬剤師として勤務。
対症療法が中心の現場で、繰り返す入退院や長期投薬を目の当たりにし、「もっと力になれる方法はないか」と模索する中で漢方と出会う。
現在は漢方の持つ幅広さと可能性に魅了され、一人ひとりの体質に寄り添った根本改善を追求している。















