
「このまま病状が進んだら、いずれ在宅酸素になりますよ——主治医にそう言われて、頭が真っ白になった」
「いつでも酸素の機械やチューブとつながれて生活するのは、どうしても避けたい」
「坂道や階段での息苦しさが少しずつ強くなっていて、この先の生活が怖くてたまらない」
太陽堂には、「これ以上肺を悪化させたくない」「在宅酸素になるのを少しでも遅らせたい、防ぎたい」という切実なお気持ちでご相談に来られる方が数多くいらっしゃいます。
進行性の呼吸器疾患と向き合う中で、将来への不安や恐怖を感じるのはごく自然なことです。今回は、西洋医学における在宅酸素療法(HOT)の役割やお薬の知識を整理しながら、その不安への向き合い方と、今から体の内側からできる「肺の土台の積み立て」について、薬剤師の視点から詳しく解説いたします。
【この記事の結論:「在宅酸素になりたくない不安」に対する漢方の考え方】
- 不調の正体(原因): 西洋医学では肺胞破壊や線維化による不可逆的なガス交換障害(低酸素血症)とされますが、漢方ではくすぶる「肺の炎症(熱・湿痰)」に加え、全身のエネルギー源である「脾(胃腸)」と「腎」の著しい疲弊(気血両虚・陰陽両虚)と考えます。
- 漢方の解決策: 西洋薬の吸入治療等を維持しながら、漢方で肺のくすぶる慢性炎症を静め、お腹の働きを高めて体力・免疫力の底上げを図り、残された肺機能を最大限に護り活かします。
- 対象となる主な疾患・お悩み: COPD(慢性閉塞性肺疾患・肺気腫)、間質性肺炎、非結核性抗酸菌症(肺MAC症)、気管支拡張症、運動時の強い息切れ
【まず大前提】在宅酸素療法(HOT)は「敵」ではありません
在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)と告げられると、「人生の終わり」「もう寝たきりになるのでは」と絶望的なイメージを抱いてしまう方が少なくありません。
しかし、西洋医学において在宅酸素療法は、体(脳・心臓・全身の臓器)に深刻なダメージを与える慢性的低酸素状態を防ぎ、心不全などの合併症を予防して「より動ける生活を維持し、命を守るための前向きな治療」です。
主治医の先生が検査数値(SpO2や動脈血ガス分析など)に基づいて「酸素が必要」と判断された場合は、身体を守るためにその治療方針を最優先に尊重してください。
その大前提を踏まえたうえで、「そうなる前に、今自分ができる身体のケアを積み上げたい」「これ以上の進行を食い止めたい」という想いを持つことも大変素晴らしいことです。ここからは、その「今日からできる体の積み立て」についてお話ししていきます。
西洋医学的なメカニズムと病院での検査・治療
COPD(肺気腫)や間質性肺炎などの進行性呼吸器疾患では、気道の慢性炎症や肺胞の破壊、あるいは肺の線維化(硬くなること)によって、空気中の酸素を血液中に取り込む「ガス交換機能」が低下していきます。
病院で行われる主な検査と「酸素導入」の基準
- パルスオキシメーター(SpO2): 静止時や歩行時に90%を下回る状態が続くかどうかが重要な観察ポイントです。
- 動脈血ガス分析(PaO2): 採血によって血液中の実際の酸素分圧を測定します。一般的にPaO2が55Torr以下(または60Torr以下で著しい労作時低酸素や心不全を伴う場合)が在宅酸素療法の保険適用基準となります。
- 6分間歩行試験(6MWT): 6分間で歩ける距離と、その間の酸素飽和度の低下度合いを測定し、日常の動ける範囲を評価します。
病院で処方される代表的な西洋薬
- 長時間作用性吸入抗コリン薬(LAMA)/β2刺激薬(LABA): スピリーバ、ウルティブロなど。狭くなった気管支を直接拡張し、空気の出入りをスムーズにします。
- 吸入ステロイド薬(ICS): ビレーズトリ、テリルジーなど。気道の過剰なアレルギー性炎症や慢性炎症を強力に鎮めます。
- 抗線維化薬: オフェブ、ピルフェニドン(間質性肺炎の場合)。肺の線維化の進行スピードを緩やかにします。
これらのお薬は、気道の空気の通り道を維持し、急激な悪化(急性増悪)を防ぐために欠かせない治療の柱です。
【薬剤師コラム①】「なりたくない」その強い気持ちが、ケアのスタートラインです
担当薬剤師:椙田
「これ以上進んで在宅酸素になったらどうしよう……」と、不安でいっぱいの表情で太陽堂のドアを叩かれる方は、実はとても多くいらっしゃいます。主治医から「そろそろ酸素を考えましょう」と示唆され、次回の診察に行くのが怖いとおっしゃるご本人やご家族もいらっしゃいます。
医療の現場にいる者として正直にお伝えすると、「これを飲めば絶対に進行が止まる」「確実に酸素を回避できる」という魔法のようなお薬は、西洋医学にも東洋医学にも存在しません。
しかし、「体質に合ったケアを積み重ねることで、進行が穏やかになり、何年も安定した生活を維持されている方」はたくさんいらっしゃいます。
太陽堂がまず最初に取り組むのは、「肺のくすぶる炎症(熱・湿痰)を取ること」です。肺の中で静かに続く慢性炎症は、肺組織をじわじわと消耗させ、息苦しさを強める最大の火種だからです。ここを鎮めながら、お腹の力(脾)と身体の免疫力を底上げしていくことこそが、最も確実な積み立てになります。
【比較表】西洋医学(病院のアプローチ)と漢方薬(太陽堂のアプローチ)の違い
進行性呼吸器疾患に対する西洋医学と東洋医学の役割には、以下のような特徴や補完関係があります。
| 比較項目 | 西洋医学(病院での治療) | 漢方薬(太陽堂の体質ケア) |
| 主な目的 | 気管支の直接拡張、急激な炎症の鎮静、酸素欠乏の物理的補給 | 肺のくすぶる慢性炎症の消火、胃腸機能の回復、体力・免疫の底上げ |
| アプローチ方法 | 吸入気管支拡張薬、吸入ステロイド薬、在宅酸素装置(HOT) | 補気薬(人参・黄耆)、清熱化痰薬、補陰薬などを合わせたオーダーメイド処方 |
| 得意な領域 | 局所的な気管支拡張、急性増悪の急場をしのぐ、生命の直接的維持 | 「疲れやすい」「食欲が出ない」「風邪を引きやすい」といった体全体の弱りの立て直し |
| お互いの関係性 | 呼吸の通り道と酸素量を確保する「物理的な柱」 | 壊れていない健全な肺と体の土台を護り活かす「栄養と免疫の土台」 |
漢方から見た原因と体質タイプ別の解説
漢方では、呼吸を単に「肺」だけの問題と捉えず、消化吸収を司る「脾(ひ:胃腸)」や、生命エネルギーの根本である「腎(じん)」とのつながりの中で紐解いていきます。
主な体質タイプは以下の通りです。
① 肺に炎症と過剰な熱がこもっているタイプ(肺熱・気道炎症)
- 主な症状: 咳や黄色っぽい粘り気のある痰が出る、胸が熱く苦しい、動くと息が上がる。
- 漢方的見解: 気道や肺の粘膜に過剰な熱(炎症)やネバネバした水分(湿痰)が滞っている状態です。
- アプローチ: 肺のこもった熱を和らげ、気道を清らかにして粘膜の消炎を図る生薬(麦門冬、桑白皮、貝母など)を用いて、肺の消耗を食い止めます。
② 胃腸が弱り身体のエネルギーが枯渇しているタイプ(脾胃虚弱・気血両虚)
- 主な症状: 少し動いただけで激しく疲れる、食欲がない、理由もなく体重が減っている、便がゆるい。
- 漢方的見解: 呼吸に多大なエネルギーを奪われ、食べ物からエネルギー(気・血)を作り出す「胃腸」が限界を迎えている状態です。
- アプローチ: 胃腸を助ける生薬(白朮、茯苓、人参など)や体力を養う生薬(黄耆など)を用いて、全身のパワーと免疫力の底上げを図ります。
③ 呼吸を引き込む底力が低下しているタイプ(腎不納気・肺腎両虚)
- 主な症状: 息を吸い込むのが苦しい、階段で膝や腰がだるくなる、冷えがある、朝方の息苦しさ。
- 漢方的見解: 吸い込んだ酸素を体深くへ引き込む「腎」の納気作用が低下している状態です。
- アプローチ: 「腎」の働きを温めて補う生薬(地黄、山茱萸、五味子など)を組み合わせ、しっかり酸素を取り込める呼吸の土台を作ります。
【薬剤師コラム②】「怖いから動かない」が、一番の遠回りです
担当薬剤師:林
「これ以上悪くなるのが怖くて、自宅でできるだけじっと安静にしています」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、これは実は逆効果になってしまうことが多くあります。
苦しいからといって全く動かない生活を続けていると、足腰の筋肉(骨格筋)や呼吸を助ける筋肉(呼吸筋)が急速に衰えてしまいます。すると、以前と同じ「トイレに行く」「服を着替える」といった日常のわずかな動作でも、より多くの酸素と体力を消費するようになり、ますます息が切れるという「恐ろしい負の悪循環」に陥ってしまうのです。
主治医の先生から特別な運動制限指示が出ていない限り、平らな場所のゆっくりとしたお散歩や、家の中での家事など、無理のない範囲で身体を動かし続けることが大切です。
「無理なく動くこと」「風邪を徹底的に防ぐこと」「しっかり食べて体重を減らさないこと」——この3つこそが、肺を守る毎日の強力な積み立てになります。漢方薬は、その積み立てを「体力と免疫」の側面からしっかりと支える伴走者です。
【改善実例】太陽堂での体質改善エピソード(服用終了まで)
【肺気腫・COPD】昭和38年生 男性|粘り気のある痰と息苦しさが落ち着き、1年5ヶ月で安定
3年前に病院で肺気腫(COPD)と診断され、年々息切れや咳・痰が重くなってきたことでご相談に来られました。粘り気のある痰が気管支に張り付いてスムーズに吐き出せず、息が十分に吸えないため常に苦しい状態でした。
お渡ししたのは、①肺のこもった炎症を和らげる煎じ薬 ②咳や粘り気のある痰をスムーズに排出させる漢方薬 の2種類です。
- 1ヶ月後: 動いたときの息切れはまだ残るものの、しつこく張り付いていた痰の量が減り、咳き込む回数が和らいできました。
- 11ヶ月後: 坂道での息苦しさは多少あるものの、以前のような激しい咳き込みや呼吸のパニックはなくなり、「少しずつ身体が前を向いている」と実感。
- 1年5ヶ月後: つらい症状もほとんど出なくなり、酸素数値を保ちながら落ち着いて日常を過ごせる状態が定着したため、笑顔で体質ケアの完了(ご卒業)を迎えられました。
※効果の感じ方や必要な期間には個人差があります。
今日からできる食養生・生活の積み立て
日々の生活習慣や食事の工夫は、漢方薬の効果を高め、呼吸の負担を直接的に軽減してくれます。
- 「口すぼめ呼吸」を日常に取り入れる: 息を吸うときの2倍以上の時間をかけ、口をすぼめて「フーーッ」と細く長く吐き出します。気管支内の圧力を保ち、吐き出しきれずに残る空気を減らして呼吸を楽にします。
- 「体重の減少」を食事で防ぐ: COPDや呼吸器疾患の方は、呼吸運動そのものに大量のカロリーを消費します。体重の減少はそのまま筋肉量や免疫力の低下(カヘキシー)に直結するため、豆腐、卵、白身魚、赤身肉などの高タンパクで消化に良い食事を意識して摂りましょう。
- 部屋の加湿と「首元・背中の温活」: 空気が乾燥すると粘膜バリアが破壊され、風邪ウイルスが侵入しやすくなります。加湿器で室温湿度50%前後を保ち、首の後ろや背中を温めて冷気の侵入を防ぎましょう。
よくあるご質問(FAQ)
漢方を飲めば、絶対に在宅酸素にならずにすみますか?
「絶対に避けられる」というお約束はできません。しかし、今できる最善の積み立てになります。
病気の進行度や体質には個人差があるため、100%の保証はできません。しかし、肺の炎症を落ち着かせ、胃腸を元気にして体力と免疫力を補うことで、病気の進行スピードを穏やかにし、酸素なしで元気に動ける期間を長期間保たれている方は実際に大勢いらっしゃいます。諦めずに今日から積み立てていくことが何より大切です。
すでに在宅酸素(HOT)を使っています。今からでも漢方の相談はできますか?
はい、もちろんご相談いただけます。
実際に、病院の在宅酸素療法を受けながら並行して漢方薬を服用されている方はたくさんいらっしゃいます。酸素の設定や西洋薬の治療方針は主治医の先生の指示をしっかり守りながら、漢方で「食欲・体力・風邪への強さ」といった体の基礎体力を支えることで、より楽に日常を動ける身体作りを目指せます。
どの段階から漢方相談を始めるのが良いですか?
「息切れが気になり始めた」「咳や痰が長引いている」という早い段階ほど理想的です。
肺の組織が大きく消耗してしまう前の、できるだけ早い段階から体質の積み立てを始めた方が、選択できる生薬の幅も広く、体の土台をしっかりと立て直しやすくなります。「まだ酸素は使っていないけれど将来が不安」という時期こそ、ご相談のベストタイミングです。
まとめ|怖がって立ち止まるより、今日から「肺」を積み立てよう
「在宅酸素になりたくない」という切実な想いは、決してネガティブなものではありません。それはご自身の体と向き合い、健康を守るための大きなスタートラインです。
恐れて安静にしすぎるのではなく、「肺のこもった炎症を鎮めること」「風邪を徹底的に防ぐこと」「しっかり食べて無理のない範囲で動くこと」を今日から一つずつ重ねていきましょう。
太陽堂は、あなたの不安に寄り添い、体調と数値を大切に見守りながら、内側から体を支える伴走者です。
「病院で注意されて不安でたまらない」
「今できることを具体的に始めたい」そんな方は、どうぞ一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。お持ちのお薬手帳や検査数値をご用意のうえ、お声がけくださいね。
関連するお悩み別・次に読むページ
呼吸器疾患や息切れに関する詳しい情報は、以下の専門ページでもご紹介しております。
疾患別の専門ページは、こちらでご紹介しています。
太陽堂の特徴
”当薬局のHPをご覧いただき、ありがとうございます。
私たち太陽堂は「一人でも多くの方の笑顔を見る為に」という思いのもと開局しました。
漢方薬とお客様の出会いがお悩み、体質改善の一助になれれば幸いです。”
特徴その1.
当薬局では、お客様「ひとりひとりに合わせた漢方薬」をその場で調合いたします。
そのため初めてのご相談では、「約1時間~1時間半」ほど相談時間をいただいております。
(遠方のお客様や、お忙しいお客様へは配送の受付もしております。詳しくはお問合せください)
特徴その2.
お作りする漢方薬は、国内外から厳選した生薬の力を、余すことなくお客様に届けるため
「煎じ薬」をお勧めしております。
特徴その3.
当薬局は漢方専門の薬剤師が「得意とする専門分野」にわかれて日々研鑽しています。
お客様の健康を第一に考え、漢方の勉強会なども積極的に開催しております。
記事作成者 薬剤師 林 泰太郎

実績:伝統漢方研究会 2015~2017年・2019年・2020年・2022年・2025年 学術発表
調剤薬局で3年間勤め、西洋の薬だけでは治療が難しい病気の壁に直面。
・「治療の難しい病気をなんとか治したい。」
・「ひとりでも多くの患者さんを笑顔にしたい。」
という想いから漢方の道へ。
漢方薬局で3年間修業をして、2015年 『漢方薬局 太陽堂』を立ち上げ。
開局10年を迎えた今も1ヶ月の平均来局数は900名を超え、お客様にご愛顧いただいている太陽堂の漢方薬剤師です。
記事作成者 薬剤師 椙田 彩純

担当疾患;循環器、身体の痛み
臨床検査技師の両親の影響で、幼い頃から医療に関心を持つ。
大学卒業後、病院薬剤師として勤務。
対症療法が中心の現場で、繰り返す入退院や長期投薬を目の当たりにし、「もっと力になれる方法はないか」と模索する中で漢方と出会う。
現在は漢方の持つ幅広さと可能性に魅了され、一人ひとりの体質に寄り添った根本改善を追求している。














