
「階段の途中で、一度立ち止まらないと上がれなくなった」
「同年代の人と一緒に歩いていると、自分だけ息が上がってついていけない」
「病院で『歳のせいですよ』と言われたけれど、本当にそれだけなのか不安……」
階段や坂道での息切れは、「加齢のせい」とひとくくりにされがちです。しかし実際には、肺や心臓の不調、あるいは運動不足による体力の衰えなど、背景にある原因によって必要なケアや向き合い方は大きく変わります。
今回は、西洋医学的な知識(病院での検査や処方薬の役割など)も交えながら、息切れの正体の見分け方と、体の内側から整える漢方の考え方について、薬剤師の視点から詳しく解説いたします。
【この記事の結論:「階段・坂道の息切れ」に対する漢方の考え方】
- 症状の正体(原因): 西洋医学では肺疾患(COPDや間質性肺炎)や心機能低下、筋力低下が原因とされますが、漢方では呼吸を司る「肺」とエネルギーを蓄える「腎」の連携不足や気血の消耗と考えます。
- 漢方の解決策: 西洋薬で気管支拡張や炎症の和らげを行いながら、漢方で呼吸を支える「肺」と「腎」を補い、酸素を取り込んで動きやすい体調の土台を整えます。
- 対象となる主な疾患・お悩み: COPD(慢性閉塞性肺疾患・肺気腫)、間質性肺炎、気管支喘息、非結核性抗酸菌症(肺MAC症)、運動不足による体力低下
【まず大前提】急に強くなった息切れは、すぐに医療機関へ
数日のうちに急激に息切れが強くなった場合や、胸の激しい痛み・足の強いむくみを伴う場合は、重大な疾患が隠れている可能性があるため、迷わず循環器内科や呼吸器内科などの医療機関を受診してください。
また、慢性的な息切れであっても、一度病院で適切な検査を受けることが大切です。レントゲン撮影、胸部CT検査、呼吸機能検査(スパイロメトリー)、血液検査、酸素飽和度(SpO2:血中の酸素濃度)の測定などによって、原因の所在が明確になります。
店頭でのご相談の印象として、息切れがいきなり単独で始まるケースは少なく、前段階として「咳や痰」が続き、肺の炎症が進行してから息切れに至るパターンが多く見られます。そのため、「咳や痰が出ている段階」で早めの体質ケアを行っておくことが、将来の激しい息切れを防ぐための重要なポイントになります。
西洋医学的なメカニズムと病院でのお薬・検査
西洋医学において、息切れ(呼吸困難感)は「体が必要とする酸素量に対して、呼吸器や循環器の換気・循環能力が追いついていない状態」で発生します。
病院で行われる主な検査と数値の意味
- 酸素飽和度(SpO2): パルスオキシメーターで測定し、血液中のヘモグロビンがどれだけ酸素と結合しているかを示します。正常値は96〜99%程度ですが、慢性的な肺疾患があると低下しやすくなります。
- BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド): 心臓に負担がかかると上昇する血液検査の数値です。心不全などの心臓由来の息切れかを見分ける重要な指標になります。
- スパイロメトリー(呼吸機能検査): 息を吸ったり吐いたりする力を測定し、気管支の狭まり(閉塞性障害)や肺の弾力低下(拘束性障害)がないかを調べます。
病院で処方される代表的な西洋薬
- 気管支拡張薬(LAMA / LABA): スピリーバやウルティブロなどの吸入薬。気管支を広げて空気の通り道を確保し、呼吸を楽にします。
- 吸入ステロイド薬(ICS): シムビコートやアドエアなど。気道の慢性的な炎症を和らげます。
- 利尿薬・心臓のお薬: フロセミドなど。心臓のポンプ機能低下によるむくみや肺の水滞を和らげ、心臓への負担を軽くします。
これらのお薬は、収縮した気管支を直接広げたり、過剰な炎症を素早く抑えたりすることに非常に優れています。
【薬剤師コラム①】検査数値(SpO2やBNP)を見直すことの大切さ
担当薬剤師:林
正直にお伝えすると、息切れは漢方での体質ケアの中でも、じっくりと時間をかけて取り組む必要のある分野です。だからこそ私たちは、感覚だけに頼らず、西洋医学的な検査数値をとても大切にしています。
心臓由来の不調であれば血液検査のBNP数値が目安となり、肺由来の不調であれば酸素飽和度(SpO2)が運動時にどれくらい保てているかが客観的な指標になります。
そして意外に思われるかもしれませんが、SpO2もBNPも正常値であるにもかかわらず息切れを感じる方の中には、単に運動不足で心肺機能や筋力が落ちているだけというケースも少なくありません。この場合、必要なのは過剰なお薬ではなく「無理のない範囲で少しずつ体を動かすこと」です。
検査結果やお薬手帳をお持ちいただければ、どのタイプの息切れなのかを一緒に整理するところから始められますので、ご安心ください。
【比較表】西洋医学のアプローチと漢方ケアの違い
息切れに対する西洋医学の治療と、東洋医学(漢方)の体質ケアにはそれぞれ役割の違いがあります。
| 項目 | 西洋医学(病院での治療) | 漢方薬(太陽堂での体質ケア) |
| 主な役割 | 気管支の物理的拡張、急性炎症の鎮静、心臓負担の軽減 | 呼吸を司る「肺」とエネルギーを蓄える「腎」の補強、体力の底上げ |
| 得意な状態 | 急性の喘息発作、COPDの急激な悪化、心不全によるむくみ | 慢性的でなかなか抜けない息苦しさ、階段での疲れやすさ、風邪による悪化予防 |
| アプローチ方法 | 吸入ステロイド、気管支拡張薬、利尿薬などの局所的処方 | 補気・補陰・補腎などの生薬を用いた全体的な体質バランスの調整 |
| 併用のメリット | 西洋薬で急な息苦しさをコントロールしつつ、漢方で呼吸に必要な体力の土台を支える |
息切れの正体|4つのタイプと漢方的な原因
漢方では、呼吸は「肺」だけで行うものではなく、吸い込んだ気を深くまで引き込む「腎(じん)」の働きとの連携で行われると考えます。息切れの背景にある4つのタイプを解説します。
① 肺の不調タイプ(COPD・肺気腫・間質性肺炎など)
- 特徴: 咳や痰を伴うことが多く、階段を上るなどの運動時に酸素飽和度が下がりやすい。※間質性肺炎は痰が少なく、乾いた咳と息切れが中心となります。
- 漢方的見解: 肺の潤いが不足する「肺陰虚(はいいんきょ)」や、肺のエネルギーが低下する「肺気虚(はいききょ)」の状態です。
COPD・肺気腫の詳しい漢方サポートは、こちらの疾患ページでご紹介しています。
② 心臓の不調タイプ(慢性心不全など)
- 特徴: 足のむくみ、横になると苦しい、動悸。血液検査でBNP数値の上昇が見られます。
- 漢方的見解: 心臓の働きを高めるエネルギーが不足する「心陽虚(しんようきょ)」や、体内に水分が滞る「水毒(すいどく)」の状態です。
③ 気管支喘息タイプ
- 特徴: 「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という喘鳴(ぜんめい)を伴う。夜間から明け方、または寒暖差のある季節の変わり目に不調が出やすい。
- 漢方的見解: 気道に余分な水分が溜まる「痰飲(たんいん)」や、自律神経の乱れが影響しています。
④ 運動不足・体力低下タイプ
- 特徴: 病院の検査では異常なし。酸素飽和度も正常だが、日常生活で体を動かす機会が減り、筋肉や心肺の耐久力が低下している。
- 漢方的見解: 体全体のエネルギーが不足する「気血両虚(きけつりょうきょ)」の状態です。
【比較表】息切れの4つのタイプと漢方のアプローチ
| タイプ | よくある症状・サイン | 組み合わせる漢方薬の働き |
| ① 肺の不調 | 慢性的な咳・痰、動いた時の息苦しさ | 肺の炎症を和らげ、粘膜に潤いを与えて呼吸の負担を軽減する |
| ② 心臓の不調 | 足のむくみ、動悸、横になると苦しい | 水分の滞りを整え、心身のポンプ機能を穏やかにサポートする |
| ③ 気管支喘息 | ゼーゼー音、夜間・明け方の発作的な苦しさ | 気道の余分な水分をさばき、気の巡りをスムーズにして呼吸を楽にする |
| ④ 体力低下 | 検査は異常なし、すぐ疲れる、だるさ | 胃腸の働きを助け、気(エネルギー)を補って動ける体力を養う |
【薬剤師コラム②】「動かないこと」が一番の敵です
担当薬剤師:椙田
息が切れるのが怖くなって、外出や運動をなるべく避けるようになってしまうお気持ちはよく分かります。しかし、全く動かない生活を続けていると、心肺機能も足腰の筋肉もさらに低下し、少し動いただけで益々息が切れるという「負の悪循環」に陥ってしまうのです。
そのため太陽堂では、「無理のない範囲で、ある程度は体を動かしてくださいね」とお伝えしています。平らな道の散歩でも、家の中の軽い掃除や家事でも構いません。主治医の先生から運動制限の指示が出ていない場合は、できる範囲で日常の動作を保つことが大切です。
漢方薬は、その「動ける体」を体力と呼吸の側面から支えるための伴走者です。焦らず、一歩ずつ一緒に進んでいきましょう。
【改善実例】太陽堂での体質改善エピソード
①【肺MAC症・疲れ・息切れ】昭和28年生 女性|階段の息切れが落ち着き、2年で体質ケア完了
6〜7年前に肺MAC症(非結核性抗酸菌症)と診断され、次第に咳や血痰、強い疲れ、息切れが出てきて心配になりご相談に来られました。お出かけした後は体がぐったりと疲弊してしまう状態でした。
お渡ししたのは、①菌を除去する漢方薬 ②免疫を上げる漢方薬 ③体力低下と疲れを補う漢方薬 の3種類です。
- 3ヶ月後: 体の強い疲労感が抜け、外出してもぐったりすることが減ってきました。
- 7ヶ月後: 息切れを和らげる漢方薬に調整したところ、階段を昇ったときの息切れが目立たなくなってきたとのこと。
- 2年後: 咳や痰、息切れも気にならなくなり、元気に過ごせていることから、無事に漢方ケアの服用終了(ご卒業)となりました。
②【喘息・肺気腫】昭和17年生 女性|階段の上り下りがだいぶ楽に
3年前に喘息と診断され、思うような変化が見られずご相談に来られました。少し歩いたり階段を上ったりすると息苦しさが出現し、喉がゼーゼーすることもある状態でした。
お渡ししたのは、①気道の炎症を和らげる漢方薬 ②呼吸の通りを楽にする漢方薬 の2種類です。
- 1ヶ月後: 呼吸が楽に感じる日が多くなり、体調が良い日が増えてきました。
- 9ヶ月後: 季節の変わり目などに多少の波はあるものの、階段の上り下りがだいぶ楽になっているとのこと。
- 1年3ヶ月後: 以前は寝るときに苦しさを感じていましたが、夜も落ち着いて横になれるようになり、息苦しさを感じる頻度が大幅に減りました。
※効果の感じ方や必要な期間には個人差があります。
ご自宅でできるセルフケア・食養生
日常のちょっとした習慣を見直すことで、呼吸のしやすさや体力の維持につながります。
- 「口すぼめ呼吸」を取り入れる: 鼻からゆっくり息を吸い、口をすぼめて吸うときの2倍の時間をかけて細く長く吐き出します。気道が狭まるのを防ぎ、効率よく空気を入れ替えることができます。
- 肺を潤す食材を意識する: 東洋医学で肺を潤すとされる白色の食材(ゆりね、山芋、大根、白きくらげ、梨など)を日々の食事に取り入れるのがおすすめです。
- 冷えを防ぎ、首元や背中を温める: 冷たい空気や冷えは気管支を収縮させます。外出時はマフラーやストールを活用し、首の後ろ(風門というツボ付近)を温かく保ちましょう。
よくあるご質問(FAQ)
病院で「歳のせい」と言われました。それでも相談できますか?
はい、もちろんです。
単なる年齢のせいと片付けず、体質やタイプの見極めから進めます。体力低下が中心なのか、肺や心臓の働きに負担がかかっているのかによって、取り組むべきケアは変わります。検査結果(酸素飽和度や血液検査など)をお持ちいただければ、一緒に状態を整理いたします。
病院で処方されている吸入薬や飲み薬と併用できますか?
はい、基本的には併用していただけます。
西洋薬で気管支の収縮や過剰な炎症を抑えつつ、漢方で呼吸に必要な体力の土台を養うという、お互いの強みを活かした併用が可能です。現在お使いのお薬手帳をぜひお見せください。
どのくらいの期間で変化を感じられますか?
体質や症状の深さにより異なりますが、数ヶ月〜年単位でじっくり取り組むケースが多いです。
息切れは呼吸器や筋力の状態が関係するため、時間がかかる分野です。しかし、実例のように焦らず取り組むことで、「階段の上り下りが楽になった」「外出後の疲れ方が違う」といった穏やかな変化を感じられる方が多くいらっしゃいます。
息が切れるときは、ずっと安静にしていた方がいいですか?
全く動かないでいることはおすすめしません。
全く動かない生活を続けると、心肺機能や筋力が急速に衰え、かえって息切れが悪化する悪循環に陥ります。主治医の先生の運動指示の範囲内で、無理のない程度に日常の動作を継続することが大切です。ただし、強い息苦しさや胸の痛みがあるときは、すぐに運動をやめて受診してください。
まとめ|「歳のせい」と諦めず、タイプを見極めて一歩ずつ
階段や坂道での息切れは、正体の見極め(肺・心臓・体力低下など) → 動ける体調を保つ → 体の内側から土台を支えるというステップで向き合うことが大切です。
焦らずじっくり取り組むことで、階段の移動や外出が楽になり、自分らしい毎日を取り戻された方はたくさんいらっしゃいます。
「歳のせいかも……」と諦めてしまう前に、ぜひ検査結果やお薬手帳を持ってご相談ください。あなたが元気で「動ける体」を保ち続けるための伴走者として、丁寧にサポートいたします。
「COPD・肺気腫は治らない」と言われた方には、こちらの記事もどうぞ。
関連する心臓・呼吸器のお悩みは、こちらでご紹介しています。
太陽堂の特徴
”当薬局のHPをご覧いただき、ありがとうございます。
私たち太陽堂は「一人でも多くの方の笑顔を見る為に」という思いのもと開局しました。
漢方薬とお客様の出会いがお悩み、体質改善の一助になれれば幸いです。”
特徴その1.
当薬局では、お客様「ひとりひとりに合わせた漢方薬」をその場で調合いたします。
そのため初めてのご相談では、「約1時間~1時間半」ほど相談時間をいただいております。
(遠方のお客様や、お忙しいお客様へは配送の受付もしております。詳しくはお問合せください)
特徴その2.
お作りする漢方薬は、国内外から厳選した生薬の力を、余すことなくお客様に届けるため
「煎じ薬」をお勧めしております。
特徴その3.
当薬局は漢方専門の薬剤師が「得意とする専門分野」にわかれて日々研鑽しています。
お客様の健康を第一に考え、漢方の勉強会なども積極的に開催しております。
記事作成者 薬剤師 林 泰太郎

実績:伝統漢方研究会 2015~2017年・2019年・2020年・2022年・2025年 学術発表
調剤薬局で3年間勤め、西洋の薬だけでは治療が難しい病気の壁に直面。
・「治療の難しい病気をなんとか治したい。」
・「ひとりでも多くの患者さんを笑顔にしたい。」
という想いから漢方の道へ。
漢方薬局で3年間修業をして、2015年 『漢方薬局 太陽堂』を立ち上げ。
開局10年を迎えた今も1ヶ月の平均来局数は900名を超え、お客様にご愛顧いただいている太陽堂の漢方薬剤師です。
記事作成者 薬剤師 椙田 彩純

担当疾患;循環器、身体の痛み
臨床検査技師の両親の影響で、幼い頃から医療に関心を持つ。
大学卒業後、病院薬剤師として勤務。
対症療法が中心の現場で、繰り返す入退院や長期投薬を目の当たりにし、「もっと力になれる方法はないか」と模索する中で漢方と出会う。
現在は漢方の持つ幅広さと可能性に魅了され、一人ひとりの体質に寄り添った根本改善を追求している。















